『デジタル・デモクラシー: ビッグ・テックを包囲するグローバル市民社会』2024/4/30
内田 聖子 (著)
ビッグ・テックが独占するデジタル技術によって、人々の監視や搾取が世界的に広がり、抗議の声が各地にわきおこっています。公正で倫理的なテクノロジーを求める、デジタル時代の民主主義の姿を生き生きと描き出している本で、岩波『世界』に10回にわたって連載された記事を修正・加筆したものだそうです。
「まえがき」には、巨大IT企業はインターネットやスマホ、SNS、生成AIなど、私たちに便利さと快適さをもたらした一方で、次のような問題も起こしてきたことが書いてありました。
「(前略)ビッグ・テックが牽引するデジタル経済モデルのなかで、国家権力による監視・管理、プライバシーなどの人権侵害、偽情報やフェイクニュースの蔓延、差別や貧困の再生産がすでに多数起こっている。また「大きすぎてつぶせない(too big to fail)」と言われるほど巨大になったビッグ・テックの存在によって、公正な市場が棄損され、独占と支配の構造がより強化されてもいる。」
そして……
・「デジタル化の究極の目的は、民主主義の深化にこそあるべきで、決して利便性や効率性そのものにあるわけではない。誰かの人権を侵害したり、現状の格差を拡大したり、特定の誰かだけが不当な利益を手にするようなデジタル化であれば、私たちはそれを批判し、距離をとり、場合によっては拒絶しなければならない。さらに、民主主義を通じて企業の行動や市場を適正に規制する方法や、公正で倫理的な技術のあり方を、私たち自身が具体的に構想していかなければならない。本書の一番の目的は、この議論の道を見つけることにある。」
・「(前略)本書が意味する「デジタル・デモクラシー」は、力(パワー)を持つビッグ・テックと彼らが構築した搾取的で不公正な経済モデルに対し、人々があらゆる手法やアイデア、運動を通じて抵抗し、民主的で倫理的な対策を生み出そうとしている、まさにそのプロセスを指す。」
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本書では「監視技術の蔓延」や、「侵略的で略奪的なターゲティング広告のもたらすさまざまな弊害」など、さまざまな問題が次々と提示されていきます。
第3章では、子どものオンライン・ゲーム依存などの問題とともに、次のことが指摘されていました。
「(前略)オンライン・ゲーム環境が、個人の追跡とターゲティング広告システムの一部になっているのだ。
すでにゲーム空間は単なる仮想現実の世界ではない。たとえば、GPSを利用したモバイルゲーム「ポケモンGO」は、ポケモンを追いかける人々を、物理的に移動させることができる。広告を出したレストランや店舗の前に、ポケモンを獲得しようとする多数のユーザーを「連れて行く」こともできるのだ。」
……まさに、その通りのことが起きていますね。しかも……
「巧妙かつ複雑につくり込まれたネット上の広告を、大人であれば「これは広告だ」と理解できても、子どもがそう認識し、批判的に読み解くことは難しい。」
ところが……
「日本は、こうした潮流から大きく遅れをとっており、子どもに対する広告やマーケティングに関する法律や規制は存在しないのが現状である。」
……うーん、確かに……。
そして最も恐ろしく感じたのが、「第5章 アルゴリズム・ジャスティス」。AIの学習にはバイアスが入りやすいのに、AIが導き出した予測が正しいかどうか検証されないことに関連して、次のような指摘が……
・「(前略)ビッグデータを使ったアルゴリズムは、結果を予測しているのではなく、そうなるように仕組んでいる、ということです。」
・「数学者や統計学者が開発したAIのアルゴリズムが、まさに「数学による破壊兵器」として、人々の現実により広く影響を与える時代がやってきた。」
……これに対して、「営業秘密であるアルゴリズムの開示は現状の法制度では不可能だが、それを「監査」することは可能なはず」という発想から、2016年「オニール・リスクコンサルティング&アルゴリズム監査(ORCAA)」という小さな監査会社が設立されたそうです。次のように書いてありました。
「ORCAAは、クライアント企業のアルゴリズムの設計や利用方法、データの獲得方法やコードの試験方法、システムのメンテナンスなどの情報を精査する。その際の指標は、1.データの完全性(データにバイアスが含まれていないか)、2.成功の基準(開発者が「成功」と定めた基準が間違っていないか)、3.正確性(アルゴリズムが誤りを起こす頻度や対象の分析、失敗した時の損失規模など)、4.アルゴリズムの長期的影響(社会や人々に及ぼす負の連鎖がないか)だ。」
……これは、とても良い活動のようですね!
ちなみに、ここでも……
「(前略)日本の個人保護法ではそもそもアルゴリズムの透明性に関する規定はなく、EUのAI規制案やデジタル・サービス法などと比べれば十分とは言いがたい。」
……なのだとか。
この他にも、ビッグ・テックが農業分野へ進出している問題や、労働問題なども……
・「デジタル・プラットフォームにおける労働の問題は、ウーバーやアマゾン・メカニカルタークなどのギグワーカー(雇用によらない、細切れで不安定な仕事)問題として顕在化している。」
・「プラットフォームはあらゆる面で強い権限を持ち、トラブルの解決策と責任のすべてをワーカーに負わせるように設計されている。それを正当化できるのは、「オンライン・プラットフォーム労働者は、誰にも『雇用』されておらず、独立した『個人事業主』『フリーランス』である」という論理だ。」
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……これらの問題に対しては、農民や労働者側から、反対活動や集団訴訟などが起きているようです。
その一方でビッグ・テック側は、ロビー活動に力を入れているようです。
「(前略)ビッグ・テックの真の「力」は、自らを規制するルールの策定を阻止するために、政治と政策に強い影響力を行使してきた、その戦略にこそ表れている。人材と資金を総動員するロビー活動はビッグ・テックによる要塞化であり、公共政策を歪め、監視資本主義の市場をここまで成功させてきた要因の一つだ。」
……またビッグ・テックは、研究の独立性も脅かしているようです。
・「多様で複雑化するロビー活動の影響のなかで、市民社会が最も懸念するのが、研究の独立性の問題だ。」
・「二〇一〇年代以降、ドイツやフランス、英国などの主要国では、グーグルが全面的に資金提供をする形で、新しい研究所やシンクタンクが設立されてきた。限られた研究費に苦戦する研究者にとっては魅力的であり、何よりもグーグルが世界中から集めたビッグデータにアクセスできるという「特権」が得られる。」
……うーん、懸念は感じつつも……グーグルのビッグデータへのアクセス特権ですか……かなり魅力的ですね……うーん……。
この他にも「スマートシティ」などの活動にまつわる問題も取り上げられていました。
そして……
「(前略)ビッグ・テックは政治への特権的なアクセスを持ち、経済・社会全体でますます優位に立つようになりました。ロビイストがテクノロジーの未来をつくることがないように、人々が政策議論に参加することが重要です。」
……その通りだと思います。
「日本の私たちには、本書で紹介したさまざまな取り組み――集団行動、立法、自前の技術、そして倫理的な技術を求める研究者・技術者との連携のいずれも――について、世界から学び、やるべきことが山のようにある。」
『デジタル・デモクラシー: ビッグ・テックを包囲するグローバル市民社会』……巨大な力を持つビッグ・テックに対抗し、自ら未来社会を作り上げる努力の重要性を教えてくれる本でした。
「あとがき」には……
「デジタル社会の終点はディストピアでもなくユートピアでもなく、人々が社会経済的に尊厳ある暮らしをし、未来に希望を抱ける当たり前の社会であるべきだ。」
……とあります。希望を抱ける未来社会を作るために、何をすべきか考えるために、みなさんも、ぜひ読んでみてください☆
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なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
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