『Dr.マシリト 最強漫画術』2023/7/21
鳥嶋 和彦 (著)
「ドラゴンボール」の鳥山明さん、「電影少女」の桂正和さん、「ダイの大冒険」の稲田浩司さん(作画)……「少年ジャンプ」看板作家誕生の陰には、編集者・鳥嶋和彦さんの慧眼と手腕があったことをまざまざと感じさせてくれる本で、自らの漫画家養成技術(鳥嶋メソッド)を、漫画の実例とともに分かりやすく解説してくれます。内容は次の通りです。
最強講座1・最強漫画宣言
描きたい漫画でなく、読者が読みたい漫画を描け! ヒットの秘密は「読みやすさ」にあり!!
最強講座2・最強漫画の作り方
漫画編集者が教えるヒット作の描き方! 最強キャラクターから最強物語の作り方まで!!
最強講座3・プロ漫画家入門
漫画で食べていくとはこういうことだ! 職業・漫画家のすべて!!
最強講座4・漫画家養成実践マニュアル
「読み切り」を作り、出版社の門を叩け! 長編連載漫画を勝ち取るための編集部攻略法!!
最強講座5・漫画ビジネスのすべて
漫画出版業界を知らずにプロにはなれない! 日本の漫画ビジネスの現実を知れ!!
最強講座6・MANGAの未来戦略
漫画の未来はデジタルと海外進出にあり! 明日の漫画家は今日の漫画家ではない!!
最強講座補講 鳥嶋和彦スペシャル対談
鳥嶋和彦と鳥山明、桂正和、稲田浩司が語り尽くす、ヒット作誕生の舞台裏!!
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「最強講座1・最強漫画宣言」では、ヒットの秘密は「読みやすさ」にある(漫画が面白いかどうかを判断するのは読者だから、面白さを読みやすく伝えるためには、読者の視点に合わせて書くことが不可欠)と断言していて、まったくその通り! と共感してしまいました。とくに長編になると、設定が覚えきれないほど多くなって……なんだか、だんだん面白くなくなっていくような気がしていましたが……要するに「読みにくく」なっていたんですね……。長編については、次のことも書いてありました。
「長期連載作品の長期に渡る物語が、最初から構想されているとは限らない。むしろ連載しヒットした作品が長編化していく例のほうが多く、連載一回ごとに「続く」としたうえで、漫画家がそのつど次回を考え、連載をつなげることも珍しくないのだ。その場のノリで思うままに描いていく。いわばライブ進行。だからこそ漫画家自身も予想しなかった方向に物語が展開し、先の読めない面白さにつながっていくこともある。」
この好例があの「ドラゴンボール」だそうです。
続く「最強講座2・最強漫画の作り方」では、人気漫画になるのは、強力な魅力を放つ主人公が必要で、長編連載はキャラクターの人気で作品がヒットするそうです。そして……
「キャラクターに特徴を持たせるための基本的な方法は、長所か弱点、またはその両方を持たせることである。(中略)肝心なのはキャラクターたちの相互関係の中で、それがうまく機能する(=物語を盛り上げる)ような長所や弱点を与えることだ。(中略)
さらに、長所にも弱点にもそれぞれ制約を持たせることで、キャラクターを目立たせるばかりか物語を盛り上げることができるだろう。」
……など、キャラクター発想へのヒントが紹介されていました。
ここで面白いと思ったのが、「背景の基本」。
「(前略)どんな風景と状態の中にキャラクターがいるのか、絵として最低限の情報を与えることが背景の役割であり、与えた以降はいくらでも省略が可能となる。」
……長編連載では背景を緻密に描き続けることはとてつもない負担となるので、緻密な場合でも「最低限の緻密さ」で描くそうです。なるほど……。
さらに長編連載漫画の本質として……
「(前略)本質とはつまり、長編連載漫画は連載される一回一回がそのつど面白ければいいのであって、実は物語そのものに整合性がなくても、結果として成立してしまうものだからである。だからといっていい加減に描いていいものではもちろんないが、一回ごとの面白さにインパクトがあることこそが、長編連載漫画では最優先されるのである。」
……うーん、これはギャグ漫画でなくても、そうなんでしょうか……?
そして「最強のコマ、見開きの作り方」としては……
「(前略)前の見開きで何が描かれていたか、めくり返して確認せずにすむよう、その見開きで読者に伝える情報を見開きごとに完結させておくことが望ましいのだ。わかりやすく言い直せば、一つの見開きが、一つの小さな物語としてまとまるように漫画を描くということ。これこそ私が読者目線で発見した、長編連載漫画の一話をわかりやすく描くための極意である。」
……これはまさに理想的な作り方ですが、ずーっとそうし続けるのは、かなり難易度が高いような気もします……。
こんな感じで、とても実践的に役立ちそうな漫画家養成技術(鳥嶋メソッド)について詳しく解説してくれて、とても参考になりました。
「最強講座3・プロ漫画家入門」では、職業・漫画家の収入や、漫画編集者の仕事などが、さらに「最強講座4・漫画家養成実践マニュアル」では、編集部への漫画の持ち込み方法などまで詳しい解説があって、どれも興味津々。
そして「最強講座補講 鳥嶋和彦スペシャル対談」では、鳥嶋和彦さんと鳥山明さんが「ドラゴンボール」を作っていたときの苦労話なども詳しく語ってくれて、ええー、あれにはそんな裏話があったんだ、と驚くような話がたくさん……「Dr.スランプ」にDr.マシリトが出たときには、わざと締め切りギリギリに渡してOKさせた(笑)とか、アラレちゃんは1回しか出さない予定の発明品だったとか、アクションを描くために悟空の等身を高く(少年から青年に)変えたとか……本当に貴重な裏話ばかりです。(桂正和さん、稲田浩司さんとの裏話もあります)。
『Dr.マシリト 最強漫画術』……「少年ジャンプ」の編集者で6代目編集長の鳥嶋和彦さんが、じっくり解説してくれる漫画家養成技術(鳥嶋メソッド)。とても面白くて参考にもなる本でした。漫画家を目指している方はもちろん、漫画好きの方も、ぜひ読んでみてください。お勧めです☆
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なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
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