『知っておきたい!統計のオモテとウラ―統計とうまくつき合うために』2023/8/28
神林博史 (著)

 統計の基礎知識や統計とのつき合い方を、とても分かりやすく解説してくれる、統計初心者向けの入門書です。
『知っておきたい!統計のオモテとウラ』というタイトルだったので、統計についての裏技や落とし穴までを詳しく教えてくれる専門書かと勘違いしてしまったのですが、落とし穴についての説明はあったものの、専門的な裏技などはない初心者向けの入門書でした。というか……今まで私が読んだ中で、「一番読みやすい統計学の本」だったと思います。統計の本はけっこう読んでいたので、目新しい知識はなかったのですが、数学が苦手な人でも、とても読みやすい感じでした。
 例えば「第1章 統計って何だろう」では、「データ」「統計」「統計学」の違いについて、データは「統計のもとになる情報」、「統計」は「データの特徴を表現した数値」、「統計学」は、「データから統計を作り出す方法」という説明とともに、統計は料理のようなものだとして、「材料=データ、料理=統計、調理法=統計学」という喩えが書いてありました。……なるほど。
 また統計の効用としては、「統計を利用することで、思い込みを排除し、より良い判断ができる」ことで、最近はさまざまな場面で、統計を使いこなせる「統計リテラシー」が求められるようになっています。
「統計リテラシーの構成要素」には、知的要素と心理的要素があり、知的要素は、「リテラシー・スキル」「統計的知識」「数学的知識」「文脈についての知識」「批判的な問い」の5つ、「心理的要素」には、「信念と態度」「批判的な心がまえ」の2つがあるそうです。
「第2章 統計数値の特徴を理解しよう」では、中央値が「真ん中の数値」、最頻値が「いちばん多い数値」、平均値が「データの重心」であること、データのちらばりを把握する方法の一つが「標準偏差」であることなど、統計の基礎に関する入門的な説明がありました。
 そして「第3章 ちょっと難しいけれど大切な「データの質」と「関係」の話」では、標本の無作為抽出や誤差、相関関係と因果関係などの、統計にとって重要な概念が解説されていました。
「第4章 「良く見せたい」の落とし穴」では、いよいよ「統計のウラ」的な話が始まります。
 実は「統計」を利用して、相手を騙すことは意外に簡単に出来るのです。その一つの「統計を良く見せるためのグラフのマジック」には、次のようなものがあることが紹介されていました。
1)縦軸の操作(縦軸の数値範囲を狭く設定すると数値の変化を大きく見せることができる)
2)横軸の操作(横軸が時系列の場合などは、都合のいい期間や時期を設定することができる)
3)3次元化(3次元グラフでは手前が大きく、奥が小さく見える)
4)グラフの形と数値の不一致(グラフの形と数値を一致させないことで印象操作する)
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 そしてこのグラフトのトリックへの傾向と対策としては……
1)棒グラフや折れ線グラフでは縦軸の数値を確認
2)棒グラフや折れ線グラフでは横軸の数値も確認(時系列の場合は、その範囲外のことを考えてみる)
3)3次元グラフを見る時は、3次元化する必要があるのかを考えてみる
4)グラフに数値がある場合は、数値とグラフの形状が一致しているかを念のため確認する
 ……などがあるそうです。
 この他にも「自分の主張に都合のいい証拠のみを提示すること(チェリーピッキング)」など、さまざまな騙しのテクニックがあることも紹介されていました。
 統計の解釈では、しばしば思い込みや大人の事情の関係で、誤った解釈や都合のいい解釈が行われることがありますが、これを見破るための最も基本的な方法は、情報のもととなる資料(原典)を確認することなのだとか。「統計リテラシーの構成要素」に「批判的な心がまえ」がありますが、データやグラフで統計的エビデンスが示されていても、それが自分の判断にとって重要なものである場合は、データやグラフ、統計分析結果の解説文を盲信することなく、そこに何らかの「ごまかし」が入っていないかを常に確かめようとすることが大事なのだと思います。
『知っておきたい!統計のオモテとウラ―統計とうまくつき合うために』……統計の基礎中の基礎的な知識と、統計とうまくつき合うための心構え(データを読むための知識を持つ、データやグラフを盲信しない)を分かりやすく教えてくれる本でした。みなさんも、ぜひ読んでみてください。「数学や統計は苦手だけど、仕事上必要だから勉強しなければならない」とお困りの方には、特にお勧めします。
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
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