『化石に眠るDNA-絶滅動物は復活するか (中公新書 2793)』2024/2/21
更科 功 (著)

 恐竜、マンモスなど絶滅種を復活させるという見果てぬ夢……科学者たちが織りなした古代DNA研究の軌跡をたどり、古代DNA研究の方法、最新状況などについても解説してくれる本です。
「第1章 古代DNA研究の前夜」には次のように書いてありました。
「化石は長い年月にわたって、地中などに放置されることがふつうである。そのあいだには、菌類や細菌などが入り込んで、増殖することもあるだろう。そうすると、化石の中に、それらのDNAが残ることになる。また、化石が発掘された後は、いろいろと人間に扱われるため、人間のDNAが化石に混入することも多い。
 さらにいえば、DNAは至るところに存在している。生物は生きているだけで、垢や汗や吐息などによって、のべつまくなしにDNAを撒き散らしている。(中略)それらが何らかの形で化石に混入する可能性は非常に高い。つまり化石の中には、いろいろな生物のDNAが混在しているということだ。したがって、化石の中からDNAを取り出した場合、それがもともとの生物に由来するDNAである保証はない。」
 ……確かに、そうですね! 化石の中からDNAが取り出せたからと言って、それがその化石本体の生物のものとは限らないんだ……しかも古いDNAはバラバラになっていることも、さらには一部が変化してしまっていることも多いそうです。この本では、古代DNA研究が立ち向かわなければならない様々な困難さを知ることが出来ました。
 ところで古代DNA研究というと、映画や小説の『ジュラシック・パーク』で、琥珀に閉じ込められた蚊の血から恐竜を復活させたことを思い浮かべる人も多いと思いますが、実はそれには成功していないばかりか、ほとんど不可能なのかもしれないようです。そもそも琥珀中の昆虫から見つかったDNAは、本当に琥珀中の昆虫のものなのか、外部から侵入したものなのかの判断がつかないし、琥珀が固くなるためには高温高圧が必要で、紫外線によるDNA損傷が発生するなどの環境では、琥珀中のDNAが壊れてしまう可能性は高く、実際に、琥珀中の古代の昆虫DNAとされたもので、きちんと再現性のあるものは一つもなかったのだとか……うーん、ちょっと残念です……。
 この本では、古代DNA研究について歴史的経緯や、さまざまな手法をじっくり知ることができて興味津々でした。
 例えば1970年代後半になると、アミノ酸分析ではなく、免疫学的な手法を使って、化石中のタンパク質の検出が試みられるようになったそうです。
「どんな病原体にも結合できるという抗体の性質を利用して、タンパク質に結合する抗体をつくり、化石の中のタンパク質を検出しようというわけだ。ちなみに抗体自身も、免疫グロブリンと呼ばれるタンパク質である。」
 ……なるほど。いろんな手法がとられてきたんですね!
古代DNA研究のスタートとされるものは、絶滅したクアッガの剥製(死後140年)からDNAの抽出を試みた研究だそうです。
「ヒグチらは、プロテアーゼK処理、フェノール抽出、エタノール沈殿というオーソドックスなDNA抽出法で、クアッガの剥製からDNAを回収することができた。」
 このクアッガ研究には、その後の古代DNA研究者が見習うべき優れた点が3つあったそうです。
1)ただDNAが残っていることを確かめただけでなく、ミトコンドリアDNA塩基配列から、クアッガがウマよりシマウマに近縁であることを示した。
2)古代DNAの劣化の可能性をきちんと検討した。
3)混入の可能性も検討した(確認する実験も行った)。
 ……最初の古代DNA研究なのに、きちんと「劣化の可能性」まで調べているのが凄いと感心させられました。実は、塩基の変化には一定の傾向がある(変化しやすい道筋がある)そうです。
 この他にも、絶滅したマンモスの復活の試み、絶滅危惧種が絶滅する前に体細胞クローンを作る(バンテンの体細胞クローンが動物園で7年生きた事例あり)、さらには「先祖返り」の方法で恐竜を鳥(ニワトリ)の胚から復活させようという試み(進化過程を知るために、鳥のゲノムの中に眠っている記憶を呼び覚まして進化を逆行させる)などの驚くような古代DNA研究についても、詳しく知ることが出来ました。
 ちなみにネアンデルタール人が、ヒトとは違う人類だと判定されたのは、「ネアンデルタール人の骨の中からは、ヒトと似ているがヒトとは少し異なるミトコンドリアDNAがとれた(ヒトとの比較で平均して28塩基の違い。ヒト同士だと平均して7塩基の違い)」からのようです。……なるほど。
『化石に眠るDNA-絶滅動物は復活するか』……古代DNA研究の歴史的経緯や、方法について具体的に知ることが出来る本でした。とても参考になったので、興味のある方はぜひ読んでみてください☆
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