『意味がわかるAI入門 ――自然言語処理をめぐる哲学の挑戦 (筑摩選書 267)』2023/11/17
次田 瞬 (著)

 ChatGPTはなぜ「意味のある(っぽい)」答えができるのか?
 AIの開発史をたどりながら、言語哲学を手がかりに現在のAIを支える大規模言語モデルのメカニズムを解き明かし、深い霧に包まれた「意味理解」の正体に迫っていこうとしている哲学者の次田さんによるAIの入門書で、内容は次の通りです。
序章 哲学者、大規模言語モデルに興味を持つ
第一章 AIの歴史──心の哲学を補助線として
1 ダートマス会議にはじまる
2 第一次AIブーム──「一人で立てたよ!」
3 AIの冬(1)──「時バエは矢を好む」?
4 第二次AIブーム──「知識には力が宿っている」
5 AIの冬(2)──「あなたたち人工知能研究者はいつもそうやって?をつく」
6 第三次AIブーム──「私たちはずっと正しかったのだ」
7 1980年代のコネクショニズム批判 
8 残された疑問──ニューラルネットワークは自然言語を扱えるのか?
第二章 自然言語処理の現在──言語哲学を補助線として
1 AIは言葉の意味を理解すると思いますか? 
2 意味に対する伝統的アプローチ
3 真理条件意味論に対する疑い 
4 コネクショニズム化する自然言語処理
5 分布意味論の批判的検討
6 大規模言語モデルと言葉の意味理解 
7 意味と意味理解についてわかったこと、まだわかっていないこと
終章 機械に心は宿るのか?
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「序章」には次のように書いてありました。
「現在のAIに何ができて何が「まだ」できないのかを考察しつつ、言葉の意味についての洞察を得る。これが本書の目的であり、自然言語処理を本職とするわけでもない哲学分野の研究者が時代の先端をいく題材に手をつける理由である。結果的に、本書は他の類書ではあまり目にすることのない意味観(たとえば「意味とは何か」という問題と「意味理解とは何か」という問題の峻別など)を提供するだろう。」
 ということで、本書の概略としては、第一章では、「人工知能」という言葉が作られた1956年以来のAI研究の展開を振り返り、第二章では、AIは言葉の意味を理解するのかという問題を言語哲学の観点から掘り下げています。
 第一章はAIに詳しい人にとっては既知の情報が多いのですが、AIの多くの本が技術者による解説なのに対して、本書は文系の哲学者の次田さんが解説してくれるので、より分かりやすくなっているような気がします。
 そして第二章からが、この本の核心になります。
「言葉の意味とは何か」という問題については、「真理条件意味論」と「意味の使用説」という二つの代表的なアプローチがあるそうです。
このうち「真理条件意味論」は、「論理学で用いられる人工言語の意味論から発展してきたこのアプローチは、文に代表される複雑な言語表現の意味を、それ以上分割できない基本単位(単語)の意味から厳格なルールに従って計算されるものとみなす」ものだそうですが、この真理条件意味論が提供する意味観は、残念ながら最近の自然言語処理にはほとんど貢献できなかったそうです。
 そしてもう一方の「意味の使用説」は、「現在のAIが言語を処理する「メカニズム(ニューラル言語モデル)は、意味の使用説の一種である「分布意味論」に基づいて生み出された」ということで、こちらのアプローチが現在のAI大規模言語モデルに通じています。
 第二章の「4 コネクショニズム化する自然言語処理」には、次のようなことが書いてありました。
・「分布意味論の出発点は、意味が似ている二つの単語は、周辺に出現する単語群も似ている傾向にある、という事実である。」
・分布仮説:単語の意味はその単語が置かれうる環境によって決まる
・コンピュータに単語の意味を理解させるには、空所穴埋めの課題を解かせればよいのではないか、というアイデアが生まれる。
・出現している単語の情報だけに基づいて、間に挟まれた単語を予想する。
・単語列には出現しやすいものと出現しにくいものがある。
・単語列の後に続く単語の出現確率を与える方法を身につければ単語列の使用法(意味)を理解したことになる。
・翻訳とは起点言語の単語列をその意味を保存しつつ目標言語の単語列に置き換えること。
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 などのアプローチによって大規模言語モデルが発展してきました。そして、さまざまな努力の結果、人間らしい文章を書くことができる大規模言語モデルのGPT-3が生み出されました。このGPT-3については……
「GPT-3は次単語予測を徹底的に極めており、流暢な文章を生成する。途中まで書いた文章の続きを書かせるという使い方ももちろんできるが、質問応答システムとしても優秀で、自然科学や歴史、プログラミングなど幅広い話題に対応できる。これは書籍やウイキペディアに加えて、十年近い年月をかけてウェブから収集されたCommon Crawlという巨大コーパスで学習したおかげなのだろう。」
 ……ただ……GPT-3などの大規模言語モデルは、驚くほど流暢な文章を書ける一方で、デタラメな内容を返してきたり、質問の一部を同義語で置き換えるだけで全く違った答えを返してきたりするなど、「自分が何を言っているのか分かっていないという印象」があります。現状では、まだAIは「意味を理解している」とは言えないようです。
 そして「終章 機械に心は宿るのか?」では、2023年3月に発表されたGPT-4(GPT-3よりさらに性能が上がった大規模言語モデル)が紹介されていました。
 なんとGPT-4は人間が受ける試験にも幅広く対応でき、アメリカの統一司法試験(UBE)の模試などでは、上位10パーセントに入るほどの好成績を収めているそうです。……うーん、そんなGPT-4に「君には知性はない」と言い切る自信は私にはありません……(ただしGPT-4も、GPT-3 と同じように「デタラメ」「不安定」という弱点がまだあるそうですが)。
 機械が知性を持っているかに関しては、それを判断するためのチューリングテスト(模倣ゲーム)が有名ですが、もしかしたらGPT-4は、このテストに楽々パスしてしまうかもしれません。
 でも最近では、チューリングテストの代替案として「チューターテスト」が提案されているようで、これは「人間の優れたチューターと同じくらい効果的に(一定時間内に)教えることができる機械は本物の知能を有する」というものだそうです。……これに合格する機械も……近い将来に出現しそうな気がします……。
 さて、この章には次のような文章もありました。
「脳は魂の座である。かつてミンスキーは脳のことを「肉でできた機械」と表現した。意識は肉でできた機械に宿っている。そのように考えてみると、機械が肉(たんぱく質)でできていることの何がそんなに特別なのか、鉄やシリコンといった金属でできた機械に意識が宿ることはないのか、という疑問が生じる。」
 ……うーん、確かに……。私たち人間の神経も電気信号で動いているわけですし、人間の神経細胞を模倣して作られている現在のAIのことを知れば知るほど、私たち人間の脳はどんな風に「問題解決」「創造的思考」とくに「ひらめき」を行っているのか、不思議な気持ちがどんどん膨らんでいきます。AIも凄いけど、私たちの脳もやっぱり凄いよね……少なくとも現時点では、まだAIよりも……たぶん……。
『意味がわかるAI入門 ――自然言語処理をめぐる哲学の挑戦』……言語哲学を補助線として「意味理解」の正体や大規模言語モデルの仕組みに迫っている本で、とても参考になりました。AIは今後、私たちの社会に不可欠な存在になっていくと思います。みなさんも、ぜひ読んでみてください。文系の方には特にお勧めします☆
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
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