『[カラー図解] 海底探検の科学』2023/6/28
後藤 忠徳 (著)

 最新の海底調査技術を豊富なフルカラー写真と分かりやすい説明で解説してくれる本で、主な内容は次のとおりです。
第1章 最新の海洋探査(海洋・海底探査技術のすべて)
(特別講義:地球科学の分野:宇宙天文学、惑星科学、地質学)
第2章 地震と火山と海の底(海の底のさらに下を探る)
(特別講義:地球科学の分野:火山と地震)
第3章 海から知る地球生命と気象(海と生物、環境のかかわり)
(特別講義:地球科学の分野:海と生命の関係)
 各章の先頭には「特別講義」があり、知っておくとその章の内容がより分かりやすくなる基礎知識を解説してもらえます。例えば、第1章の特別講義の一部を紹介すると……
・地磁気逆転で何が起こったの?
「地磁気が逆転する時には磁気圏のバリアがなくなってしまうので、太陽や宇宙からの放射線が地球に直撃します。生物の遺伝子は放射線の影響を受けるので、進化の促進や大量絶滅が引き起こされます。さらにこの放射線は大気上層で雲を作るので、太陽光がさえぎられて気温が下がります。このように比較的短い期間で環境が激変した時期が地質時代の「区分」に設定されてきました。」
 ……という感じです。

 そして「第1章 最新の海洋探査」では……
・海の中は通信もできない
「海の中は、光が届かず、温度は低く圧力は高い世界です。さらに電波を用いた通信も満足にできません。これらが海底の探査を難しくしています。
 海水は塩分が豊富で電気を通しやすく、電波を吸収してしまいます。地上なら地形は目で見えますし、レーダー(電波)を使った地形測定もできますが、海中では使えません。そこで、音(音波)を使って海底の地形を測定します。船が出す音波が海底で跳ね返ってくる時間を計り、船から海底までの距離を求めるのです。」
 ……という感じの説明が、実際の海中の写真やイラストとともに分かりやすく書いてあります。
 とりわけ興味津々だったのが、「第2章 地震と火山と海の底」で紹介されていた「東北地方太平洋沖地震について、地球深部探査船「ちきゅう」が明らかにしたこと」。「ちきゅう」は、大地震の際に断層がズレ動いたときの「摩擦熱」を測り、次のようなことが分かってきたようです。
「(前略)断層は周りよりも温度が高く、地震から約2年経っても当時の摩擦熱が残っていました。(中略)
 温度の測定値から、断層での摩擦発熱が小さかったことが判明しました。つまり、断層が非常に滑りやすかったということです。」
 プレート境界の断層コアには、水を通しにくい粘土鉱物(スメクタイト)が大量に含まれていたそうで、このような海底掘削調査と実験室での再実験で、東北地方太平洋沖地震で、震源より離れた海溝軸付近で巨大な滑りが起きたときの状況が、次のように分かってきたようです。
・地震発生で断層が動き、摩擦熱が発生して粘土層内の水が膨張
・膨張した水は、水を通しにくいスメクタイト層に阻まれて逃げ場を失った
・粘土層内の水圧が高くなり、断層部分が広がって滑りやすくなった。大きな断層滑りが海溝軸付近でも発生した
・大陸プレートが跳ね上がるように大きく動き、巨大津波となった
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 ……海底調査が進むことで、大地震などの災害への対処がより速くできるようになると良いと思います。
 この他にも深海用3Dレーザースキャナー、水中ロボット、自律型の無人潜水機などの最新の海底調査技術や状況を、多数の写真でリアルに知ることが出来て、とてもわくわくさせられました。
 本書の終わりには、海底火山の噴火や台風・集中豪雨といったさまざまな自然災害の理解、海洋や海底のさまざまな資源の探査・開発、地球温暖化の抑制、マイクロプラスチックなどの海洋環境問題、多様性に満ちた生き物の保全などを考える上でも、海や地球のモニタリング技術が求められていることや、水中ロボット技術や地震・津波監視システムが基礎となり発展していくことが書いてありましたが……このような海底の研究が、これからも、どんどん進んでいくことを願っています。
『海底探検の科学』。海底探検の現場をリアルに感じられる楽しくて勉強にもなる本でした。みなさんも、ぜひ読んで(眺めて)みてください。お勧めです☆
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
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