『小説みたいに楽しく読める生命科学講義』2021/7/9
石浦 章一 (著)
遺伝子でわかった人類の移動や、DNA鑑定で読み解くエジプト王朝、iPS細胞やワクチン、ゲノム編集まで、私たちヒトにまつわる話を分かりやすく教えてくれる「生命科学講義」の本で、内容は次の通りです。
第0章 生命科学のおはなし
第1章 進化のおはなし
第2章 遺伝のおはなし
第3章 DNA鑑定と歴史の謎
余談 データを見るときの注意点
第4章 遺伝子組換えとiPS細胞、ワクチン
第5章 環境と生物、放射能
第6章 ゲノム編集の最新事情
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ちなみに生物学と生命科学の違いとは……
「生物学は、動物とか植物、微生物を対象とした学問です。(中略)加えて、生物の進化とか私たち身の回りの環境の話、生態学がメインになっています。ところが、大学の生命科学は生物学とは少しちがって、人間中心で医療のお話がメインになっています。(中略)
そして、私たちの生活には生命倫理が重要になってきています。生命倫理も生命科学の一部です。」……だそうです(本書内では、もっと詳しい説明があります)。
各章の終わりには、その章の「まとめ」が箇条書きになっているので、それを読むと講義の簡単な復習ができると思います。
さて「第1章 進化のおはなし」では、ヒトよりもサルの方が、染色体数が多い(ヒトの染色体は46本でチンパンジーは48本)という意外な事実を知りました。ヒトとチンパンジーの共通祖先の染色体は48本だったのに、ヒトでは二つの染色体が切れて相互にくっつきあい(相互転座)、46本になったそうです。……そうだったんだ……。
「第2章 遺伝のおはなし」では、手や足など、どの組織のDNAも同じなのに、形が違うのはなぜ? という疑問に「DNAは同じでも、組織によってオンになっている(発現している)遺伝子が違うので、顔や手など違う形になる」という答えがありました。そして働いている遺伝子を調べるためには、RNAを調べるそうです。RNAは働いている遺伝子からつくられる(転写される)物質なので、RNAが出来ていればDNAが働いていることが分かるのだとか。
「第5章 環境と生物、放射能」では、放射能について次のように書いてありました。
「(前略)放射線自体が危険なのではなくて、放射線と反応した水分子が危険な物質をつくるんですね。反応性の高い活性酸素をつくって、それが自分自身のDNAやタンパク質と反応して、がん変異が起こってがんになるわけです。放射線が人間に当たると、人間の体にある水から活性酸素が出てその活性酸素が体の中のいろんな成分を変えていきます。これが発がんの原因だということはぜひ覚えておいてください。」
……放射線は、一年に浴びる量が百ミリシーベルト以上だと、がんになる確率が少し上昇するそうです。ちなみに日本だと、住んでいるだけで浴びる放射線量は、多いところで年間一ミリシーベルトくらいなのだとか(岩の多い場所の方が、放射線量が多め、関東ローム層など火山灰地帯は少なめだそうです)。
ところで本書には、ちょっと長めの「余談」の章があり、「データを見るときの注意点」についての説明がありました。この章の解説は、科学全般で役立つと思うので、参考までにこの章の「まとめ」を紹介します。
「データを見るときの注意点(まとめ)」
・バイアスがかかっていることに注意してデータを読みましょう。
・相関関係に惑わされず、因果関係がどうで何が大事かを判断する必要があります。
・エビデンスに基づく、データの信頼性を担保した実験を心がけましょう。
・思い込みは簡単に広がります。正しい情報かどうか自分で調べることが大切です。
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『小説みたいに楽しく読める生命科学講義』……小説みたいに楽しく読めるという感じではありませんでしたが、「生命科学」や「データの読み方」について分かりやすく解説してくれる本で、とても参考になりました。みなさんも、ぜひ読んでみてください。
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なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
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