『小説みたいに楽しく読める免疫学講義』2022/10/1
小安 重夫 (著)

 複雑な免疫学を分かりやすく教えてくれる本で、内容は次の通りです。
序章 新型コロナウイルスと戦う免疫を知ろう
第1章 それは伝染病からはじまった
第2章 免疫の謎に挑んだ偉大な先人たち
第3章 解き明かされた数々の謎
第4章 免疫はものを見分ける
第5章 自分が自分とわかる仕掛け
第6章 免疫の登場人物とその履歴
第7章 病気と免疫

 免疫学の歴史から、新型コロナウイルス、mRNAワクチン、新しく見つかった自然リンパ球などの最新のトピックまで総合的に解説してもらえます。
 とても分かりやすくて興味深かったのは、「第6章 免疫の登場人物とその履歴」。
 例えば皮膚に外傷を負って、そこから細菌が感染した場合、体内では次のことが起こるようです。
「まずはじめに、第一線で戦うのはマクロファージや好中球などの食細胞です。(中略)食細胞が集まり、その部分が赤く腫れ、熱をもち、痛みが出ることを炎症とよびます。(中略)
 侵入してきた最近の数が多かったり、毒素をもっていたりした場合には、そう簡単には戦は終わりません。傷口は化膿し、マクロファージや好中球の死骸であるうみがたまってきます。しかし、時間が経って細菌や毒素に対する抗体がB細胞からつくられてくると事態は好転します。毒素は抗体に結合することによって無力化され分解されます。また、抗体が細菌に結合すると、オプソニン化された細菌は、よりすみやかにマクロファージや好中球に貪食されるとともに、補体をさらに活性化することにより効率よく処理されて、めでたく炎症が終わります。」
 ……なるほど。炎症というのは体内で免疫が頑張って戦ってくれている証のこともあるんですね。
 そしてウイルスに感染した場合は……、
「まずは、インターフェロンの出番です。(中略)インターフェロンはウイルスが感染した細胞からつくられ、つくられたインターフェロンが作用した細胞は、いろいろなウイルスの感染に対して抵抗性を獲得します。例えば、ウイルスのRNAを分解する酵素をつくらせたり、ウイルスのmRNAからタンパク質をつくるはたらきを抑えるタンパク質を細胞につくらせたりして、ウイルスが増えるのを抑えます。食細胞が細菌を選ばないようにインターフェロンもウイルスを選びませんので、ウイルスの感染に対する第一線の自然免疫のはたらきです。」
「抗体がなかった場合には細胞への(ウイルスの)侵入を阻止することは難しく、ウイルスは細胞に入り込んで増え始めます。ここでまず登場するのは、第三の男ナチュラルキラー(NK)細胞です。NK細胞は殺しの道具を顆粒の中にもっていて、これらの武器を放出してウイルスに感染した細胞を攻撃します。また、NK細胞はインターフェロンをつくることで周りの細胞をウイルスから守ります。こうやってNK細胞が戦っている間に、B細胞が抗体をつくり、抗体がウイルスにくっつくことで感染の広がりを抑えることができるのです。またキラー細胞が登場して、ウイルスに感染した細胞を殺してとり除きます。」
 ……こんな感じで、免疫のしくみや働き、免疫学がどのように進歩してきたかなどを詳しく解説してもらえます。専門用語も多い上に、免疫のしくみがかなり複雑なので、理解するのはかなり大変でしたが(涙)……、とても勉強になりました(すぐ忘れそうでもありますが……涙、涙)。
 体内の免疫の仕組みは複雑ですが、今後、免疫研究がどんどん進んでいけば、体力が弱った患者さんでも、「自分自身の免疫能力」を支援するという形で、さまざまな疾病に自ら対応(治療)することができそうで……希望が感じられました。
『小説みたいに楽しく読める免疫学講義』、清水茜さんの大人気漫画『はたらく細胞』ほど楽しく読めるわけではありませんでしたが、とても詳しくて分かりやすく、勉強になる講義でした(楽しく読みたい方には、漫画の『はたらく細胞』シリーズをお勧めします)。免疫や健康に興味がある方は、ぜひ読んでみてください。
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
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