『[図説]貝の文化誌』2023/10/24
ファビオ・モレゾーン (著), 伊藤 はるみ (翻訳)

 貝は古代から現代に至るまで、食用としても飾りとしても利用されてきました。呪物や祭祀の道具、染め物や容器・装身具、貨幣や財宝、美術の中の貝など、人類と貝の長い歴史と魅力をカラー図版で紹介してくれる本で、内容は次の通りです。
第一章 貝殻を作る生き物たち
第二章 人類の祖先および先住民の文化と貝殻
第三章 貝殻と宗教
第四章 貨幣としての貝殻
第五章 タカラガイの模様
第六章 虹色に輝く美しさ
第七章 貝殻と芸術
第八章 医学的観点から見た軟体動物 M・G・ハラセウィッチ
第九章 変わりゆく世界における軟体動物 M・G・ハラセウィッチ

 貝の生物学から歴史、宗教との関わり、貨幣・宝飾品・芸術としての貝など、貝について総合的に解説してくれます。
 まず「第一章 貝殻を作る生き物たち」では、貝が「軟体動物」だということに気づかされました(笑)。次のように書いてありました。
・「軟体動物はその名が示す通り身体が柔らかく、通常はその身体を保護するために石灰質の外殻を持っている生き物である。ほとんどの軟体動物はそうした外殻を形成しているが、外殻が縮小しているものや完全に失われたもの(ウミウシ類など)も一部にはある。」
・「(前略)生物としての軟体動物は大いに繁栄を誇っており、地球上のほとんどすべての地域で生息している。」
 ……軟体動物には、二枚貝、腹足類(巻貝)、頭足類(イカ、タコなど)がいるそうです。イカ、タコが貝と近縁だとは知りませんでした。「タコは外殻をもたず、イカの外殻は縮小して体内の軟甲となっている。現在生息している頭足類で外殻をもっているのはオウムガイだけだ。」とのことですが、イカには縮小した外殻があったんですね……。
 そして貝類はずーーっと昔から生息しているようです。
「貝類には長い歴史がある。軟体動物の殻の化石で最古のものはカンブリア紀初期(五億四一〇〇万年前)のものとされている。」
 続く「第二章 人類の祖先および先住民の文化と貝殻」では、人間と貝の関係について、その歴史から紹介されていました。
・「(前略)私たちの祖先であり「直立する人」を意味するホモ・エレクトゥスが約五四万年前にインドネシアのジャワ島で、サメの歯を使って穴をあけたりジグザグ線を刻みこんだりした淡水産のイシガイの貝殻が最近になって発見されている。これによって人類が初めていわゆる「芸術」を生み出した時代が二〇万年以上も前にさかのぼった。」
・「貝殻で作った装身具や装飾品は先史時代からあった。」
 ……この他にも、貝は貝紫(ティリアン・パープル)などの染料として、またボディーペインティングの顔料をいれる容器としてなど、さまざまな用途で使われていたようです。
 また貝というと忘れてならないのは貨幣としての利用。「第四章 貨幣としての貝殻」によると、なんとパプアニューギニアでは現在でもタブなどの貝を貨幣(公式通貨)として利用しているそうです。
 歴史的に見ると、一番広く使われてきたのはタカラガイ科のキイロダカラだそうで、次のように書いてありました。
「(前略)初めて使われたキイロダカラの貝貨は四〇〇〇-五〇〇〇年前に沿岸部から中国北西部にやってきた商人たちがもたらしたもので、次第に広く使われるようになり、四〇〇〇-三〇〇〇年前に栄えた殷王朝および西周王朝でもっとも広く流通していた。そのころにはタカラガイに似た形のものが石、銅、骨、粘土や金や銀まで使って作られていた。紀元前三四五年ごろになると中国では金属製の貨幣が広まり、貝貨は使われなくなった。しかしそれから三〇〇年ほどたつと金属製の貨幣が偽造されるようになり、貝貨の使用が復活した。貝貨が中国で広く使われていたことは、金銭に関する漢字(買、購、財など)の一部に「貝」の文字が含まれていることからも明らかだ。」
 ……なるほど!
 そして「第六章 虹色に輝く美しさ」では、貝が作る宝石の真珠について、「第七章 貝殻と芸術」では、天然の貝の殻を彫りこんだ美しい宝飾品のシェルカメオや、絵画にも映画、アニメーション、音楽について紹介されていました。
 さらに「第八章 医学的観点から見た軟体動物」では、貝が食用だけでなく、医療にも利用されている一方、寄生虫による感染症を起こすことがあること、毒があるものもあることも紹介されています。
 そして「第九章 変わりゆく世界における軟体動物」では、環境の変化に大きく影響を受けていることが指摘されていました。
 貝について総合的に解説してくれる『[図説]貝の文化誌』で、とても興味津々でした。カラー写真や図版で、貴重な貝や美しい貝の写真をたくさん見ることが出来て、見ごたえがあります。生物が好きな方は、ぜひ一度、読んで(眺めて)みてください。
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