『苦しいとき脳に効く動物行動学』2022/11/8
小林朋道 (著)
もし、現代社会が100人の狩猟採集生活を送る集団だったなら、振り込め詐欺にひっかからない人は生き残っていないだろう……「生きにくさの正体」を動物行動学の視点から読み解き、生き延びるための道を示唆してくれる本です。
小林さんがなぜ「振り込め詐欺にひっかからない人は生き残っていないだろう」という驚きの考察をしているかというと、「振り込め詐欺にひっかかる」ような判断の仕方が、狩猟採集生活時代には「適応的」だったからだそうです。
人間は長い間「狩猟採集生活」を送ってきて、現代のような生活を始めたのはごくごく最近のことなので、現代生活に「進化的適応する」にはあまりにも時間が足りなくて、依然として「狩猟採集生活へ適応した脳構造をそのまま備えている」ために、いろいろな問題が起こっているのだとか。
狩猟採集生活では捕食者との遭遇などの危険な場面が現代より格段に多かったので、「時間をかけて考えを吟味するより一瞬で判断を下す方が、たとえそれが誤った判断であったとしても、生存・繁殖行為に有利だった」はずで、そのせいで「振り込め詐欺」に「素早い反応&対応」を行ってしまう……なるほど……そうなのかも(苦笑)。
この本は、このように「進化心理学」や「動物行動学」の視点から、「生きづらさ」のいろんな問題について考察しています。
この他にも、「よそ者嫌いはなぜ起こるのか」とか、「認知バイアス」とか、「脳という物体から、なぜ意識という非物体が生じるのか」とかのテーマで、心理学・哲学的な考察を行っていますが、ユーモア交じりのエッセイ集みたいな「軽い」感じの文章なので、気軽に読み進めていけます(笑)。
個人的に一番心に残ったのは、「苦しいとき、動物行動学の視点から考えたこと」。
不安や恐れを感じたら、自分に次のように呼びかけているそうです。
「(狩猟採集時代とは違って)大けがをすることはない。命を奪われることはない。失うものがでてきたら、それはあきらめればよい。」
さらに……
「「耐える」ことは、生存し、場合によっては繁殖のチャンスをもつ」
「適度な不安は、生存・繁殖のために注意させ、警戒させ、やり方を再考させる感情であり、われわれの脳は常に、その感情を発しつづける。」
……このように考えて、いつもの仕事をやり続けると、しだいに不安が小さくなっていくのだとか。
現代社会の「生きにくさ」を、進化心理学・動物行動学の視点から考察している本でした。
狩猟採集生活を送っていない現代人の私としては、できるかぎり「振り込め詐欺」にひっかからないように努力したいと思いますが、万が一ひっかかってしまった時は、人間は依然として「狩猟採集生活へ適応した脳構造」だから仕方がないのだ……と自分を慰めてみようと思います(苦笑)。
そして不安や悲しみが薄れてきたら、「注意、警戒、やり方を再考」しようとも考えています。
『苦しいとき脳に効く動物行動学』。現代社会の「生きにくさ」に、新しい視点を与えてくれる本でした。興味のある方は、一度読んでみてください。
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なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
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