『感染症・微生物学講義: 人類の歴史は疫病とともにあった (小学館新書 455)』2023/8/1
岡田 晴恵 (著)

「感染症の時代」に、自分や家族の命を守るために必要な最低限の知識を、感染免疫学の専門家の岡田さんが解説してくれる感染症の入門書で、主な内容は次の通りです。
第1章 地震や豪雨 自然災害に備えたい感染症
第2章 ワクチンで予防できる感染症
第3章 身近な感染症にも要注意
第4章 歴史を動かし時代を変えた感染症
第5章 地球環境の変化によって感染症も変貌する
終わりに 次なるパンデミックに備えて
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「第1章 地震や豪雨 自然災害に備えたい感染症」では、災害時に心配される感染症の筆頭格は「破傷風」だと書いてありました。
 切り傷から土壌にいる破傷風菌が体内に侵入して神経機能を侵し、強い痙攣などの症状を起こすので、破傷風に感染してしまったら、できるだけ早く傷の洗浄や抗菌薬、抗破傷風ヒト免疫グロブリン等での治療開始が必要だそうです。
「破傷風はごく微量の毒素で発症するため、罹って治っても十分な免疫ができないので、ワクチンを接種して免疫を獲得しておく他ありません。大地震の危険性が叫ばれる今、沈降破傷風トキソイドワクチンで予防しておくことは、自身でできる「防災対策」となります。」
 1967年以前、1975~1981年生まれは破傷風ワクチンを未接種の成人が多いので、自ら医療機関で破傷風ワクチンを接種することが強く勧められていました。
 また水害の時にはレジオネラ菌への注意が必要で、土砂まみれの清掃作業では、感染リスクが上がるので高機能マスクをするのが望ましいそうです。
 そのほか、草むらなどに立ち入る場合には肌を露出しないようにして、マダニに咬まれないようにすることも推奨されていました。
 そして「第3章 身近な感染症にも要注意」でも、「鶏肉はもちろん、基本的に肉類はよく加熱すること」、「生で食べる野菜はよく洗浄すること」、「ペット、動物などを触れた後やトイレの後はよく手を洗う習慣をつけること」など、日常生活で気をつけるべきことへのアドバイスがありました。
 興味深かったのが「第4章 歴史を動かし時代を変えた感染症」。ペストの大流行が、結果的にヨーロッパの宗教改革の大きな布石になったことは知っていましたが、スペイン人の侵略に苦しめられたアステカの人たちが、自ら進んでキリスト教に改宗したように見えたことがとても不思議でした。でも次の記述で、その謎が解けました。
「スペイン人らの侵入から16世紀の中頃までに、天然痘や麻疹といった感染症の流行などの結果、アステカでは人口が2500万人から300万人に、インカでは1000万から130万人に激減したのです。先住民は誰もがひとつの共通の疑問をもったのでした。
「なぜ、スペイン人はこの疫病に侵されず、自分たちだけが病に苦しむのだろうか。」そして人々はここにひとつの答えを出したのです。「スペイン人の神はアステカの神よりも優れているのだ。だから、スペイン人はアステカを支配するためにやってきたのだ。このスペイン人に逆らったアステカ人が天罰(天然痘)を受けるのは当然なのだ。」
病原体に対して、一度罹患すれば、その獲得免疫で発症を免れる、という免疫学が発達するのは、この時代から約3世紀を経てからです。この後、多くの先住民がスペイン人の神、キリスト教に改宗するのでした。」
 ……ああー! そういうことだったのか……なんだか、ちょっとモヤモヤするけど……彼らの気持ちが分かるような気も……。
 でも新大陸側も、決して、やられっぱなしではなかったようです。次のように書いてありました。
「15世紀末、突然ヨーロッパに現れた梅毒は、コロンブスの新大陸からの手土産であったという説が有力です。天然痘や麻疹のウイルスの返礼が梅毒の原因菌、梅毒トレポネーマであったのは歴史の強烈な皮肉でしょうか。」
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 さて、「第5章 地球環境の変化によって感染症も変貌する」では、想定外のウイルスが私たちに忍び寄ってきていることが、次のように書いてありました。
「(前略)この100年、世界人口は飛躍的に増加し、熱帯雨林などの野生動物の生息地域の開発も急拡大しています。人が野生動物のエリアに侵入することで動物由来の未知のウイルスに曝露され、人の社会に新型ウイルスが出現するリスクが高まります。そして、地球の一地域で発生したそのようなアウトブレイク(突発的発生)は、グローバル化した高速大量輸送網に便乗して、短期間で拡散する危険性をはらんでいるのです。エボラウイルスはおそらくオオコウモリを自然宿主として密林に生息し、それに感染した野生動物の死体や生肉に直接触れたことでヒトが感染します。」
 うーん……エボラウイルスのような超恐ろしい感染症は、絶対に避けたいです……。
「終わりに 次なるパンデミックに備えて」では、エボラウイルスよりもっと身近な鳥インフルエンザへの対応が次のように書いてありました。
「WHOは鳥からヒトへの感染が起きた際には、発生局所で流行を封じ込めて、パンデミックの発生を阻止する態勢を強化し、さらに、初期対応に失敗してパンデミックに進展する可能性が高まった際には、感染拡大と健康被害を最小に留め、社会機能・経済活動の破綻を防ぐために、幅広い緊急対応計画と事前準備を確立しておくことを各国に勧告し、その指導・準備を進めました。」
 ……コロナウイルスだけでなく、新たな感染症のパンデミックもいつか再び起こることでしょう。今回のことを教訓に、対策や準備をしておきたいと思います。
 とても勉強になる『感染症・微生物学講義』でした。この他にも、接種しておくべきワクチンなど、参考になる情報が満載です。みなさんも、ぜひ読んでみてください。
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