『火山: 地球の脈動と人との関わり (サイエンス・パレット 038)』2023/7/3
藤井 敏嗣 (著)

 火山の構造や噴火のメカニズム、噴火に伴う現象や、観測の歴史を踏まえた火山学の手法、火山によって引き起こされる多様な災害と防災の現状などを、詳しく解説してくれる本です。
 例えば、火山岩の組織に関する解説の一部を紹介すると次のような感じ。
「多くの火山岩中には比較的大きな結晶がより細粒の基質のなかに散在する。このような組織を斑状組織とよび、大きな結晶を斑晶、細粒の基質を石基とよぶ。(中略)
 一般に、石基の部分は噴火の直前まで液体状態にあったものが、地表に噴出して急冷されるため、細かな結晶と粒間のガラスとなって固化した部分である。(中略)
 一方、斑晶は地下のマグマ溜りですでに結晶化していた鉱物であり、マグマ溜りで時間をかけて成長したため比較的大きなサイズになったものである。(中略)
 火山岩の中には噴火前に地下で異なるマグマが混じり合い、噴出してできたものも多く、火山岩中の斑晶の起源を探ることによって、地下のマグマ溜りの様子を復元できることもある。」
 ……こんな感じに、具体的に分かりやすく教えてくれるのです(本文中には、もっとずっと詳しい解説があります)。
 また火山の分布に関しては……
「(前略)地震と火山の偏った分布は、地球の表面が10数枚のプレートで覆われ、お互いが独立に運動しているとするプレートテクトニクスの考えで理解できる。
 プレート同士の境界には、プレートが生まれ、互いに離れていく境界(発散境界)とプレートがすれ違う境界とプレート同士が押しあう境界(収束境界)の3種類がある。(中略)
 地震と火山が集中しているように見える地域は、海洋プレートの沈みこみが起こっているプレートの収束境界であり、沈み込む海洋プレートと陸側のプレートの境界で、地震が起こるとともに、陸側には活発な火山活動も発生している。ここで噴出するマグマ量は世界全体の26%を占める。
 一方、ハワイのようにプレートの中にポツンとできた火山もあり、ホットスポット火山とよばれる。ホットスポット火山でのマグマ量は世界全体の12%である。
 海洋底で地震が起こっている場所は海嶺とよばれる海底の山脈で、野球ボールの縫い目のように線上に連なっているものの、ここには火山のマークはほとんどない。しかし、ここで噴出するマグマ量は地球全体の62%に達する。」
 ……マグマの62%は、海中で噴出していたんですね!
 またホットスポット火山に関しても、次のような解説がありました。
「ホットスポット火山は、地球深部からのプルームがプレート(リソスフェア)の底付近で溶解してマグマがつくられ、そのマグマがプレートを突き抜けて、表面に噴き出すために生じる。(中略)
 プレート自体が常にある速度で移動しているために、ホットスポット火山では1か所でマグマが出続けて巨大な火山がつくられることにはならないのである。むしろ、初期にできた火山はプレートの動きに乗ってプルームから遠ざかってしまうので、プレート上に点々と火山の列をつくることになる。したがって、点々とつながる火山のそれぞれの年代がわかれば、プレートの移動速度を測定することも可能なのである。」
 ……火山は「偶然そこに出来た」わけではないんですね……。
 また噴火に関しても、次のような解説が。
「火山噴火とは火口からマグマあるいは岩石片が放出されることをいう。水蒸気を含む火山ガスだけが放出される場合は噴火とよばない。」
「爆発的マグマ噴火の激しさを決めるものは、マグマ中の気体成分である。マグマ中の気体成分量はマグマの生成過程によって異なる。一般にハワイなどのホットスポット火山の玄武岩マグマは、マグマ発生のもとであるマントルの岩石中に気体成分が少ないため、あまり爆発的なマグマ噴火を起こさない。海嶺で噴出する玄武岩マグマも非爆発的であるが、気体成分が少ないことに加えて、深海底で水圧が高いことが原因である。
 ところが、わが国のような沈み込み帯でつくられるマグマは、後で述べるように、マントルでのマグマ生成の段階で水などの気体成分が大きな役割を果たしていることから、マグマに含まれる気体成分の量は多い。このため、沈み込み帯のマグマはもともと爆発的噴火を起こすポテンシャルをもっていることになる。」
 ……マグマ噴火の激しさは、そういう要因で決まっていたんですか……。
 またマグマの動きを把握するため、次のような観測が行われているようです。
「マグマ噴火の場合、地下数kmないし10km付近にあるマグマ溜りから、900~1200℃程度の高温のマグマが地表に向かって移動してきて、噴火に至る。(中略)その(マグマの)体積分、山体が膨張することになる。精密な地殻変動観測装置があれば、この山体の膨張を観測できる。また、マグマが移動するための新たな通路をつくるために、既存の地盤を壊しながら上昇するので、多少なりとも地震の発生を伴う。ただし、常に噴火を繰り返し、火道が確立している場合には、新たに通路をつくる必要がないので地震はそれほど増加しない。(中略)
 マグマの動きを把握するためには地下の状態を探りたいが、光学的に「視る」ことはできないので、地震観測や地殻変動観測などの物理観測が主体となるのである。」
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 この他にも水準測量、地下に埋められた傾斜計、山腹の坑道内に設置された伸縮計、水管傾斜計による観測や、GPS観測、重力変化の観測、地磁気変動と地電流変動の観測、火山帯を通過したミュオンの量の面的測定や、斑晶鉱物とマグマ溜りのマグマ(メルト)間の元素分配に関する熱力学的解析、火山の推移モデルや、計算シミュレーションなど、さまざまな手法があることも紹介されていました。
『火山: 地球の脈動と人との関わり』……火山のことを詳しく解説してくれる本でした。
世界には約1,500の火山(活火山)があるとされ、そのうち日本には111が点在しているそうです。私たちにとって身近な火山が、どのようなものかを詳しく知ることができて、興味津々でした。ただ……残念ながら火山防災に関しては、「火山噴火に直面したときに、一般人が何をしたらいいか」についての具体的な説明があまりなかったように思います。そこまであると、もっと良かったのですが……。
 それでも、火山の構造や調査方法などについて分かりやすく詳しく解説してもらえる本で、とても参考になりました。みなさんも、ぜひ読んでみてください。
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