『科学と資本主義の未来: <せめぎ合いの時代>を超えて』2023/4/7
広井 良典 (著)
今という時代を「限りない拡大・成長」と「持続可能性」に向かうベクトルの“せめぎ合い”の時代としてとらえ、過去・現在・未来を俯瞰する超長期の時間軸から科学と資本主義の未来を展望している本で、内容は次の通りです。
第1章 『火の鳥』2050─未来を考えるとはどういうことか
第2章 なぜいま「幸福」が社会的テーマとなるのか
第3章 科学と社会の共進化
第4章 ケアとしての科学
第5章 資本主義の論じ方
第6章 鎮守の森と生態都市
第7章 医療・超高齢社会と科学
第8章 生命・情報・エネルギー
第9章 科学予算と世代間配分
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「はじめに」には、「私たちが今日「科学」と呼ぶ営みは、17世紀の科学革命を通してヨーロッパで成立して以来、同時代に生成した資本主義というシステムと“車の両輪”のような形で展開してきた。」と書いてありました。
そして「第1章 『火の鳥』2050」では、AIを活用した日本社会の未来シミュレーションを行った後、コロナ発生後のデータや新たな分析手法を盛り込んで、望ましい未来に向けて必要となる政策について、次のように語っています。
「(前略)女性活躍あるいは男女の役割分担、働き方等の多様化に関する要因等が望ましい未来(都市・地方共存型シナリオ)に向かうにあたり重要なものとして抽出された。そしてこれまでの日本における単線的な働き方や住まい方、生き方のモデルにとらわれない、すなわち(空間的な意味での「集中/分散」にとどまらない)包括的な意味での「分散型」社会への移行が、(中略)もっとも重要な要因となるという分析結果が示されたのである。」
また、これまでの人間史をざっくりまとめると、次のように言えるのだとか。
「(前略)狩猟採集段階における成熟・定常化への移行期に「心のビッグバン」が生じ、農耕社会における同様の時期に枢軸時代/精神革命の諸思想(普遍思想ないし普遍宗教)が生成し、両者はいずれも「物質的生産の量的拡大から精神的・文化的発展へ」という内容において共通していたと考えられる。」
これを受けて「第2章 なぜいま「幸福」が社会的テーマとなるのか」では、次のように語っています。
「私自身は、(中略)これからの時代においては「持続可能性(サステナビリティ)」と「幸福(ウェルビーイング)」の二者が、いわば“車の両輪”のような形で中心的な重要性を担っていくと考えている。」
「(前略)政府ないし行政が「幸福の公共政策」として重点的に取り組むべきは、他でもなく先ほど「幸福の基礎条件」あるいは「幸福の土台」と呼んだ、ピラミッドの下部の「生命/身体」に関わる領域に関する保障であるだろう。」
なおこの領域とは、医療・福祉、教育、雇用だそうです。
そして、「第3章 科学と社会の共進化」では、科学と資本主義をめぐる5つのステップを次のように総括しています。(なお、ここではそのごく一部のみを抜粋紹介します)。
1)17世紀:科学革命
・いわゆる「(西洋)近代科学」の成立
・資本主義の勃興(=市場経済プラス限りない拡大・成長)
(科学の基本コンセプト)物質(と力)
2)19世紀:科学の制度化
・工業化(産業化)の時代
・科学と技術の結びつきの強化
(科学の基本コンセプト)物質/エネルギー
3)20世紀半ば~:「科学国家」の成立
・「経済成長のための科学」という枠組みの成立(含GNPという「指標」の成立)
・いわゆるケインズ政策との連動
(科学の基本コンセプト)エネルギー/情報
4)1980年代~:科学のベンチャー化・商業化
・「イノベーション政策」の形成
・大学からのスピン・オフやベンチャー企業の増加(情報、生命科学関連など)
(科学の基本コンセプト)情報/生命
5)近年~21世紀全体:「持続可能な福祉社会」のための科学
・気候変動やSDGs等への関心の高まり
・「STEAM」など文理融合やアート、デザインとの連携
(科学の基本コンセプト)生命(含環境、生態系)
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そして「第5章 資本主義の論じ方」では、それぞれの段階において分配の不均衡や成長の推進力の枯渇といった“危機”に瀕した資本主義が、第二次大戦以降を中心とする「政府」の再分配政策(市場経済の修正)や、70年代以降の環境・資源制約を背景とする「限りない拡大・成長の修正」という二重の修正を行ってきたことを教えてくれました。
また、これからの社会システムの構想としては、次の3つがあげられるそうです。
1)人生前半の社会保障(教育を含む若い世代への手厚い支援)
2)ストックの社会保障と公共的管理(住宅・土地等の資産に関する保障や再分配)
3)コミュニティ経済(コミュニティそのものの活性化と経済循環)
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……なるほど。そして、ここでは次のようにも書いてありました。
「(前略)“資本主義的な理念(=個人の自由な競争)を実現させるために、社会主義的対応(市場経済に対する公的介入)が重要になる”という、ある意味で根本的なパラドックスを意味しているのだ。」
……「限りない拡大・成長」という従来の資本主義の考え方は、見直す必要があるのかもしれません。次のようにも言っています。
「日本社会にもっとも必要なのは、上記の「経済成長がすべての問題を解決してくれる」という発想から抜け出し、中長期的な展望に立って、本書で提案してきたような「環境・福祉・経済」が調和した「持続可能な福祉社会」と呼びうる社会のあり方を正面から議論し、構想していくことである。それは「成熟社会のデザイン」とも表現できるテーマであるだろう。」
……これまで科学と資本主義が歩んできた歴史を踏まえて、今後はどうあるべきかを展望している『科学と資本主義の未来: <せめぎ合いの時代>を超えて』……とても勉強になり、考えさせられる本だったので、みなさんも、ぜひ読んでみてください。
なお本書は、今まで一貫して「定常型社会=持続可能な福祉社会」を提唱してきた広井さんが、既刊の『人口減少社会のデザイン』『無と意識の人類史』に続いて世に問う三部作完結編だそうなので、以下の商品リンクでは、この二冊も合わせて紹介しています。
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なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
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