『地図は語る データがあぶり出す真実』2023/4/13
ジェームズ・チェシャー (著), オリバー・ウベルティ (著), & 3 その他

 人類の過去、現在から未来につながる問題点まで、あらゆるデータを地図というビジュアルな形で可視化し、読み解いていく本で、内容は次の通りです。
1章 人類の歴史 ――私たちのいたところ(人類の所業や移動経路を地図で見る)
2章 人間の活動 ――私たちは何者なのか(人口動態や通信状況を見る)
3章 今の地球 ――人類の現在地(幸福感、交通の往来、空気汚染、医療サービス、男女格差など)
4章 これからの世界 ――私たちを待ち受けるもの(我々が現在直面している将来に向けての問題点として温暖化、異常気象、人口構成をビジュアル化)
エピローグ

「序文」では、「地図が語る」ものがいくつか紹介されていましたが、その雄弁さにとても驚かされました。たとえば「航空機搭載ライダーによる調査は過去を知る手段の一つ」として示されている青い地図は、なんと「曲がりくねったミシシッピ川の過去の流路を浮かび上がらせ」ているのです!
 そして考えさせられたのが、人気のフィットネスアプリ「ストラバ」のエピソード。「ストラバ」のエンジニアは、ユーザーが運動している場所を示す世界地図を公開したのですが、中東やアフリカの地図の暗い場所になぜか点々と針のような明るい場所があり、拡大してみたら非公開の米軍施設だった……職員が知らぬ間にアプリで現在位置を共有していたために、こんなことになってしまったようです……。
 さらにデータの力を感じさせられたのが、「2章 人間の活動」で紹介されていた「オンデマンドの国勢調査」。国勢調査には大変な手間がかかりますが、「携帯電話のデータがあれば、いつでもどこでも人口を推定できる」……携帯電話は、誰がどこにいるかをリアルタイムで示してくれるのです。
 そして携帯電話のデータは、災害の時の人々の状況も教えてくれます。「携帯電話は私たちの移動を記録している。危機の時に役立つ機能だ」として、ハリケーン・マリアがプエルトリコを襲った2017年9月からの最初の4か月には、プエルトリコの住民330万人のうち30万人近くが以前と違う場所(アメリカになど)に移動していた、という事例が紹介されていました。
 また「3章 今の地球」では、人種差別と闘った社会学者のデュボイスさんの過去の住民調査がどれだけ大変だったか(しかも報われなかった……涙)という事例の紹介とともに、今日では、デジタルツールの普及によりデータの収集・拡散が容易になっていることも書いてありました。
「オープンデータ化が進むにつれて、尽きない情報の鉱脈があらわになり、誰もが情報を掘り出せるようになった。」
「データの視覚化が民主主義の強い味方となりうるのは、情報を体系化できるからだ。地図やグラフは、ばらばらの事実を集めて記憶に残る視覚資料にすることで、世論を動かす力を持つ。(中略)とはいえ、ウェルズとデュボイスが思い知ったように、地図のみで不正を正すことはできない。(中略)権力者に真実を告げるためには、「真実に基づいて行動する」ことが必要なのだ。」
 ……確かに。この本の地図を見るとすぐ分かるように、「地図上にデータを表示する」方法だと、問題がとても明確になる(はっきり目に見える)ので、社会をより良い方向へ導くのに、とても役に立ちそうに感じました。
 もちろん携帯電話のデータだけでなく、人工衛星からのデータや、各種のセンサーのデータなど、さまざまなデータが活用できます。この章では、「排煙の行方」で、「私たちが何を吸っているか、人工衛星が見せてくれる」という話と地図が、そして「空気を取り締まる」では、「台湾では何千もの大気質センサーが見張りをしていて、汚染物質の出どころを明らかにしている」という話と地図が紹介されていました。
 さらに「4章 これからの世界」の「確実性の探求」では、気象観測について、過去と現在の状況を知ることが出来ます。ここでは、次のように書いてありました。
「ジョセフ・ヘンリーらの初期の気象観測者たちが行ったように、データを集めて視覚化すれば、行動を起こすのに必要な知識が得られる。その知識を使って何をするかは、政治の意思の問題だ。確かに緩和策にはコストがかかる。だが、何もしなければ、その比ではないコストが生じる。前述の自然学者インクリーズ・ラムファムは、150年前に暴風雨警報サービスを求めた嘆願の中で、見事にそれを指摘していた。「失敗やミスは間違いなく生じるでしょう。システムが完璧に機能するようになるまで、数々の実験、繰り返しの観測も必要になります。しかし、そうした犠牲が正当化されるほど、その目的は重要ではないでしょうか?」。迫りくる嵐を止めようとしても手遅れだが、私たちにはまだ窓を板で塞ぐ時間がある。」
 ……確かに。こういう人々の努力のおかげで、私たちは気象予報の恩恵を受けられるようになったんですね……。
『地図は語る データがあぶり出す真実』……地図に記されたデータの威力をまざまざと「目に見える」形で教えてくれる本でした。
「人工衛星による観測データで、地震、洪水、火災、暴風などの世界各地の危機に関して、ほぼリアルタイムの地図が作成できるようになっている」とか、「今回私たちを襲ったコロナなどの感染症への対処で威力を発揮したデータの収集やデジタル接触追跡」とか……今後もこのような「地図に表示されたデータ」がどんどん活用されていくと思います。
 その一方で、安全保障上の問題、プライバシーの問題、間違ったデータによる被害なども懸念され……データ活用のプラス、マイナスのバランスをどうとるかも重要なことだとも思います。
 今後のデータ活用を考える上で、とても参考になる本でした。みなさんも、ぜひ読んでみてください。
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
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