『量子力学の多世界解釈 なぜあなたは無数に存在するのか (ブルーバックス)』2022/12/15
和田 純夫 (著)

 世界は無数に分岐していて、あなたはそれぞれの世界に無数に存在している……これはSFでも疑似科学でもなく、理論物理学者たちによって真剣に議論され、現在では多くの支持を集めている考え方(多世界解釈)です。多世界解釈では、「シュレーディンガーの猫」のパラドックスや「量子もつれ」などがどう説明されるのかについて、数式をあまり使わずに、(難解な量子力学の本としては)分かりやすく解説してくれる本で、内容は次の通りです。
第1章 原子の世界
第2章 量子力学の誕生
第3章 光は波か粒子か
第4章 波の収縮と確率――コペンハーゲン解釈
第5章 状態の共存から多世界解釈へ
第6章 同時進行する複数の状態
第7章 ボーア=アインシュタイン論争からエンタングルメントへ
第8章 光子の干渉実験
第9章 デコヒーレンス─ 干渉性の喪失
第10章 世界の分岐
第11章 確率則
第12章 多世界解釈の世界像
   *
「第2章 量子力学の誕生」では、量子論がなぜ必要とされることになったのかが、とても分かりやすく説明されていました。実は、私たちがよく知っている「原子」の状態(電子が原子核のまわりを動いている)自体が、古典的な物理学では、「不思議で不自然」なことだそうです。なぜなら電子は動くと「電磁波」を放出するので、勢い(エネルギー)を失って原子核に落ち込むはずなのに、なぜか落ち込まない……ということは、何かが矛盾しているのでした。
 そしてこれを解決したのが、有名な「シュレディンガー方程式」で、電子の実体はわからないけれど、シュレディンガー方程式を満たす何らかの波であると仮定すると、原子の2つの謎(原子はある程度以上はつぶれないことと、量子飛躍があること)が説明できてしまうそうです。
「第4章 波の収縮と確率――コペンハーゲン解釈」では、「電子は観測した瞬間にA点に集中した波になる(波の収縮)」という不思議な考えを受け入れる必要があることが解説されていました。
 これに対して「第5章 状態の共存から多世界解釈へ」では、いよいよ本書のメインテーマ、1957年にエベレットが提案した「多世界解釈」が紹介されていきます。
 多世界解釈は、「量子力学がこの世界の根本原理であるならば、原子一つ一つのみならず、それから構成される物体、人間、天体、そして宇宙全体も同じ原理で説明されるべきであるという発想」から生まれ、「「波の収縮」という考え方を排除し、すべてを「量子力学の基本原理であるシュレディンガー方程式」に立ち戻って考えようという立場に立っているそうです。
「多世界解釈では、電子のようなミクロな対象ばかりでなく、観測装置もそれを見ている人間(観測者)も、すべてが量子力学の対象として考える。そしてもう1つ重要なのは、それらはひとまとめの(セット)であると考えることだ。」
 そして「第6章 同時進行する複数の状態」の後には、ここまでの「中間的なまとめ」があり、ここに書いてあることが、すごく参考になりました。そのごく一部を以下に紹介します。
「量子力学では、粒子のふるまいを「波」によって記述する。しかし波は数学的な表現であり、実体があるとは思えない。そこで解釈問題が生じる。
 多世界解釈では、粒子は実在するものと考える。だがその状態は1つには決まらず、複数の状態が共存していて、波は、共存する状態の共存度の分布を表すものだと解釈する。」
「電子の位置を観測すると、波としてではなく、どこか1カ所に観測される。これについて、コペンハーゲン解釈では、波は検出された位置に、瞬間的に収縮すると仮定する(波の収縮)。一方、多世界解釈では、粒子と観測者はつねにセットであると考え、波の収縮は考えない。つまり、観測を行うと、ある位置で粒子を観測した観測者、別の位置で粒子を観測した観測者……というように、観測者も複数の(セットとしての)状態が共存すると考えるのだ。
 ここに2つの重要なポイント(注:エンタングルメントとデコヒーレンス)がある。」
 ちなみに「エンタングルメント(量子もつれ)」とは、「量子力学では状態を表すときに、すべてのものをセットで考える。そしてセットで表された状態が一般に複数、共存する。その結果として、個々の対象の状態は個別に決められないことになる」という考え方。また「デコヒーレンス(修復不可能性)」とは、「多世界解釈では、観測後も複数の状態が共存する。しかしこれらの状態が互いに干渉しあってはならない。それを保証するのがデコヒーレンスという考え方」で、世界が分岐するので干渉しないということのようです。
 そして「第7章 ボーア=アインシュタイン論争からエンタングルメントへ」以降は、量子力学や多世界解釈のさらに詳しい解説になるのですが……正直に言って、分かったような分からないような分からないような分からないような……という感じでした。
 でも少なくとも量子論がなぜ必要とされたのかとか、量子論の考え方の概要だけは(おぼろげに)理解できたような気がします。とにかく今まで読んだ量子論関係の本の中では、最も具体的で分かりやすい説明だったと思います。ありがとうございます!
 ただ……「多世界解釈」は「コペンハーゲン解釈」よりも「自然な解釈」であるとは、やっぱり思えませんでした。確かに「コペンハーゲン解釈」の「波の収縮」は、むちゃくちゃ不思議で受け入れがたい考え方ではありますが、「多世界解釈」の「世界の分岐」もむちゃくちゃ不思議で受け入れがたい考え方のように思います。だって……どんだけ「多世界」なんだよ! その「多世界」はどこに収まってるんだよ! ……うーん、どうにも腑に落ちません。どの世界にも、粒子も観測者も、それどころか宇宙そのものも入っているはずですよね……?
 ということで個人的には「謎はむしろ深まった」ような気もしてしまいましたが、量子力学のことは、ほんのちょっぴり理解が深まったかも……。
 とても勉強になる本だったので、物理や量子論に興味のある方はぜひ読んでみてください☆
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
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