『ドーキンスが語る飛翔全史』2023/1/24
リチャード・ドーキンス (著), ジャナ・レンゾヴァー (イラスト), 大田 直子 (翻訳)

 生物が何億年にもわたって、また人類が何世紀にもわたって、どのように重力に逆らい、空へ飛び立ってきたのか……飛翔の進化と科学を、美しいイラストで空想の翼に乗せて紹介してくれる本です。
『飛翔全史』というタイトルだったので、「飛翔」に関して長文の文章でみっちり説明をしてくれる本だと思っていたのですが……意外にも「飛翔に関するエッセイ集?」という感じがするほど読みやすい本でした。
『利己的な遺伝子』で有名なドーキンスさんが、「飛翔」について、進化的推測を交えながら分かりやすく語ってくれるので、とても参考になります。
 また表紙でも分かるように、かなり緻密に描かれた美しいイラストは、生物学的説明のときにも威力を発揮し、コウモリや翼竜、鳥が「前脚を翼に変えた方法」などが一目で分かる優れものでした。
 なお、コウモリは「指をすべて長くして広げて」いて、翼竜が「指を1本だけものすごく長く」している一方で、鳥は「堅い羽があるので前脚を翼にする必要はない」そうです。……そんな風に進化してきたんですね……。
 そしてこのコウモリの飛膜は、水かきから進化したのかもしれません。指の間の水かきは「アポトーシス」の働きで消されるので、それを働かなくするだけでいいから、この進化は難しくなかっただろうとのことでした……なるほど。
 動物や昆虫の飛び方についても、いろいろ知ることができました。その一例を紹介すると、次のような感じ。
「鳥をはじめ飛ぶ動物にはプロペラや射出口がないので、揚力を直接発生させるためだけでなく、前に進むためにも翼を使う。これは人工の飛行機とは異なる。飛行機の翼は揚力を発生させるが、前への推進力は出さない。」
「翼で空中を漕ぐようにすることで、前進が実現する。」
「鳥には翼を振り下ろすためと振り上げるための別々の筋肉がある。振り下ろしに動力を供給するのは大胸筋だ。(中略)(振り下ろす)筋肉(烏口上筋)は翼の下にあり、肩に広がる「ロープ」(腱)と「滑車」を用いて翼を引き上げる。ほかにも翼の角度を曲げる筋肉や、手首と肘にあたる関節を曲げることによって翼の形を変える筋肉もある。」
「昆虫の翅は鳥の翼のような改造された前脚ではなく、外骨格が薄く伸び出たもので、胸部の壁に蝶番で連結されている。翅をもち上げる筋肉が体壁内側の翅の近端を引き下ろすので、翅はてこの原理でもち上がる。」
「(トンボやバッタのような大きい昆虫は)鳥の場合と同じように、振り上げと振り下ろしはそれぞれ中枢神経系によって別々に指示される。振動するエンジンタイプの筋肉を使うのは、おもに小さい昆虫だ。」
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 また魚など水中を泳ぐ生き物についても、次のような、さまざまな情報がありました。
「魚も「浮袋」を微調整することで、同じようなこと(注:軽飛行機と)をする。浮袋とは、魚の体内にある気体の入った袋だ。袋の中の気体の量を変えることによって、魚は自分の密度を変え、上昇または下降して、再び平衡状態となる深度を見つけることができる。」
「イルカが尾を一振りするだけで水中をすばやく前進する様子は、まるで体表が極度にすべすべであるかのようだ。この表現はあながち比喩ともいえない。イルカは体系が見事に流線形であるだけでなく、2時間ごとに皮膚をふけのような形で脱いで、体の外層を取り替えているのだ。これにはイルカを減速させてしまう小さな渦を減らす効果がある。」
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 ……クジラの肌にはよくフジツボなどがついているのに、イルカがいつもきれいな肌をしているのには、そんな秘密があったんですね! 
 この他にも、飛行機や飛行船などの人工物の飛翔の話もありました。
「飛翔」について、美麗イラスト&エッセイ集的な気軽さで、総合的に概説してくれる本でした。とても良い本ではあるのですが……なんと4800円+税もする高価な本なので、書店や図書館などで、実物を確認してから買うほうがいいかもしれません。
 それでも、とても美しいハードカバーの本なので、待合室的な場所に置いておくと、知的なインテリアグッズとしても活用できそうです。
 みなさんも、ぜひ一度、読んで(眺めて)みてください☆
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
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