『世界環境変動アトラス: 過去・現在・未来』2022/9/26
ブライアン・ブーマ (著), 柴田譲治 (翻訳), 肱岡靖明 (監修)

 気候・環境の変遷と現状、未来を、さまざまな地図やグラフィックを駆使して視覚的に案内してくれる本。「大気」「水」「大地」「都市」「生命」という5つの観点から、地球と人類の環境との関わりをめぐります。
「大気」では、地球の気象が変化していることに警鐘を鳴らしています。例えば、アラスカのグレーシャーベイの氷河の前進と後退に関しては……
「(前略)自然状態での潮水氷河サイクルに温暖化による小さな揺らぎが生じ、そのわずかな差異によってシステムの状態が臨界点を越えると、状態は激しく揺らぐ相へと移行する。人為起源の気候変動と自然システムが絡み合って変化を引き起こしたのである。」
 ……今後も地球温暖化は進んでいきます。
「今後非常に多くの地域で気象が変わりやすくなるだろう。それでもひとつ確実なのは、ほとんどすべての場所が熱くなり、その結果水需要が増すということだ。」
「とても大雑把な言い方をするなら、温帯(たとえば北緯、南緯で35度から50度の間)はおそらく乾燥化が進むことになる。一方低緯度帯や高緯度帯では雨が多くなるだろう。地球全体が暖かくなるわけだが、その変化は高緯度帯ほど急速で、低緯度帯では緩慢に進む。」
 また「水」では、次のようなことも書いてありました。
「海洋は気候の調整に計り知れない役割を果たしていて、人間が大気へ放出している二酸化炭素の影響を緩和してもいる。しかし人間の炭素放出を海に押し付け過ぎれば、海洋はその炭素を大気中へ押し戻すことになる。海洋は気候変動に対してクッションの役割を果たしてくれているのだが、大気の温暖化が着実にそして延々と続けば、世界の氷帽が溶けて海洋へ水が流れ込む。今はまだその速度はゆっくりだが、加速が続いている状況だ。海洋自体も温かくなり、暑い日に金属が膨張するように海もいやおうなく膨張する。大気の温暖化という変化が海洋にも浸透し始めているのだ。」
 ……大阪では海面上昇により、なんと520万の人々の土地が奪われると予測されているそうです(怖)。
「地球規模のスケールで見れば、単純なロジックだ。今後数十年から数百年のあいだ海面水位が上昇し、その結果低地に洪水が押し寄せるのである。世界最大級の都市がたいてい海抜の低い河口部に位置しているのは、人類の文明つまり都市という環境の築き方による自然な結果だ。世界人口のほぼ10パーセント(約6億8000万人)がこうした海抜の低い沿岸域に住んでいる。」
 ……気温が温暖化すれば海面が上昇しますが、その仕組みは……
「(前略)仕組みは複雑ではない。海面上昇をもたらしている現象はふたつだ。海の水が増加していることと、海水が温められた結果として海が膨張していることだ。」
 うーん……しかも二酸化炭素が海に溶け込むことで、海水の酸性度も上がっているそうです。
「(前略)2100年までに海のpHはさらに0.3低下することが予想されていて、海洋の酸性度は1800年代とくらべ150パーセント以上も強くなる」
 ……酸性度があがると、海洋生物が貝殻や骨格を作れなくなる可能性が高いので、それも問題ですね……。
 そして世界的に「都市化」が進んでいるそうです。「陸」によると、1800年には人口100万人以上の都市は世界で3か所(ロンドン、北京、江戸(東京))だったのが、2010年には442か所に上っているのだとか!
「(前略)いまでは地球規模で、都市の外部より都市内部に住む人の方が多いのだ。」
 ……なんだか分かる気がします。だって都市の方がいろんな意味で生活しやすいですから。
「人間は自ら生息地を構築し、人間がうまくやっていけるように、自然世界の不快な変動に影響されないようにしてきた。」
……とりわけ都市は、人間が暮らしやすいように構築されているのでしょう。それにしても……東京は1800年から世界三大都市の一つだったんですね!
 そして「結論 環境問題のスケール」には、次のように書いてありました。
「(前略)世界が直面している生存上の課題は大きい。部分と全体は切り離せないため、生態系全体がいま苦境に陥っている。だからこそ希望をあきらめることはできない。なにしろ、わたしたち自身がその生態系の一部なのだから。」
 ……気候温暖化、海洋酸性化など問題は山積していますが、それでも私たち「生物」はこれまで環境の大規模変動に対応してきたので、今後もなんとかなるかもしれないな、とも感じています。
 本書の「生物」にも、自然界のシステムは変動性のパターンを通して理解することができ、生物はそうしたパターンを最大限に利用する方法を発見する名人だということが書いてありました。
「熱帯は温帯とくらべると15年早く新たな熱的世界へ突入する」そうなので、熱帯から温帯への移住者が増えるかもしれません。また私たちのライフスタイルが昼行性から夜行性に変わっていくかも(昼寝が奨励されるようになるかも?)……。
 私たち人間のせいで起きている地球温暖化を食い止める努力は、もちろんしようと考えてはいますが、変わっていく環境へ適応する努力もしたいと思っています。
 気候・環境の変遷を美しいビジュアルとともに語ってくれる『世界環境変動アトラス: 過去・現在・未来』でした。ただ……個人的には、気候や環境の変動をデータ(数値)でみっちり示してくれる図鑑のような本を期待していたのですが、科学的というよりは抒情的・詩的な文章も多く、気候などのデータやグラフもそれほど多くはありませんでした。定価5800円+税という高価な本で……装丁やビジュアルが美しいことは確かで、古い時代の地図など貴重な資料も多数掲載されていますが、科学的データも充実しているともっと良かったのに、とも感じてしまいました。それでも、ぱらぱらめくったときのクオリティは高いので、談話室や待合室のような場所に置いておくと、イメージアップに役立つのではないかと思います。
 気候や環境に関心のある方は、ぜひ一度、読んで(眺めて)見てください。
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
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