『日本の自然風景ワンダーランド: 地形・地質・植生の謎を解く』2022/8/5
小泉 武栄 (著)

 日本の自然風景を海岸、山、火山、渓谷、植物、遺跡などの6つのカテゴリーに分け、全国53か所の名勝や注目すべき自然を取り上げて、地理学者の小泉さんが実際に現地で目にした地形や植物の不思議な光景について推理しながら、その成り立ちを解き明かしていく「自然観察歩き」の本。オールカラーの写真やイラストも満載で、自然観察ガイド・観光ガイドとしても楽しめる一冊です。
「はじめに」には次のように書いてありました。
「この本のテーマは「頭を使った観光旅行をしよう! そして人生を知的に楽しもう」ということです。山や海岸の地形・地質、火山、滝と渓谷、湧水、河川、森や植物、さらには寺や神社、古い街並み、棚田、土地利用……。こういった風景の中に不思議で面白そうなものを見つけ、それが「なぜ」そうなったのかを考える。」
……知的な自然観察系観光旅行、私の好きな番組「ブラタモリ」の書籍版のような本ですね!

「第1章 海岸」では、「広島湾はなぜ凹んでいるのか?」がとても面白かったです。
 え? 湾だから凹んでいて当然では? なんて思ってしまいましたが、ここでは、瀬戸内海の中国側は、岡山辺りの海岸が直線状なのに、広島湾だけが凹んでいることに注目しているのです。……確かにそうですね! 
 実は、中国山地の大半が風化して土砂になりやすい花崗岩でできている上に、たたら製鉄による人為的掘削も多かったので、中国地方を流れる川は、大量の土砂を運んで広い沖積平野を作りやすかったそうです。
 それなのに広島湾はなぜ凹んでいるかのかと言うと……
「中国山地に発する川のほとんどはそのまま南に流れて瀬戸内海に注ぐ。(中略)しかし広島県を見てみると、福山市を流れる芦田川は何とかこれに含まれそうであるが、比婆山付近に発する川は南流していったん三次市に集まるものの、そこから先は突然西に方向を変えて江の川となり、中国山地を貫流して日本海に注ぐのである。まったく予期せぬコースを通っているといってよい。(中略)こうして広島湾に注ぐ川は、三段峡に発する太田川ただ1本になり、本来なら入るべき水量の何分の1かになってしまった。」
 ……ああ! そういう理由だったんですか! すごく納得できました。
 そして「第4章 渓谷と滝」では、「秋吉台と平尾台のカルストを比較する」の考察が、とても「へえー」でした。
 秋吉台と平尾台のカルスト地形は似ているようで、なんとなく違っていると思っていましたが、実は、カルスト地形をつくる一つひとつの石塔が、秋吉台では先が尖っていて表面に小溝(ラピエ)があるのに対して、平尾台では頭が丸まっていてラピエは見られないそうです……確かに、写真を見ると違いは一目瞭然です。その理由は……
「実は平尾台の場合は、現在の場所に落ち着いてから後の約1億年前、地下にマグマが貫入してきた。そのため、ここの石灰岩は高温で焼かれて再結晶化し、粗粒な結晶質石灰岩、つまり大理石に近いものになった。石灰岩は通常、灰色のものが多いが、平尾台の石灰岩は大理石といってもおかしくないほど白く輝いている。
 ところが粗粒な結晶と結晶の間には微小な隙間ができ、その中にシアノバクテリア(藍藻)が入り込んで繁殖した。それが石灰岩を溶かし、石塔の頭を丸くしたのだそうである。」
 へえー! 平尾台はこういう事情で、他のカルスト地形とちがって「優しい」印象があるんですね!
 そしてこの本の中で一番驚かされたのが、「第5章 植物」の群馬「チャツボミゴケ公園」。ここはとても美しい苔公園なので私自身も観光旅行をしたことがありましたが、実は過去に鉄鉱山だったことがあるそうです。……知りませんでした。
「戦時中の1943年、露天掘りの鉄鉱山として開発され、当時は群馬県内で第2位の産出量を誇ったという。(中略)
 ただ、なぜ鉄がそこにあったのかわからないだろうから簡単に解説すると、鉄を作り出したのは何とチャツボミゴケである。このコケが、鉄イオンを含む強酸性の温泉水の中で育つうちに、共生するバクテリアが鉄を吸着し、鉄の塊(褐鉄鋼)を作り出したのだという。いわば生物起源の鉱石だということである。」
 ええー! コケ(に共生するバクテリア)が鉄を作るなんて……すごく驚きでしたが、地上によくある石灰石ももとはサンゴ礁だったものが多いのだから、生物起源の鉱石があっても不思議はないのかも……。
 ところでこの本を読むまでは、チャツボミゴケ公園を「茶壷ゴケ」というイメージでとらえてしまっていたので名前を間違いやすかったのですが、実際には「茶色のツボミゴケ」という意味の「チャツボミゴケ」だそうです(笑)。ここは、本当に素敵な風景を楽しめますので、機会があったら行ってみてください。
 この他にも、「野付半島のトドワラ」や、「リアス式海岸なのになぜか砂丘の種差海岸」、「火道の断面がそのまま見える隠岐の島の知夫の赤壁」、「妙義山」などなど興味深い記事が満載です。
 そうそう佐渡金山についても驚き&納得の記事を読むことができました。
「(前略)世界ジオパークとしての佐渡島は、2000万年余り前、朝鮮半島の東に位置していた日本列島が、大陸から分かれて移動し始めたことから話が始まる。これによって大陸が割れ、跡に日本海ができるが、その際、割れた海底からマグマと熱水の貫入があり、それが佐渡金山の鉱脈の元になった。」
 ……佐渡金山のあの不思議な形に、ぴったりはまる事実(推測?)だと感じました。スケールが大きい話ですね!
 日本の不思議で素敵な光景を読み解く『日本の自然風景ワンダーランド: 地形・地質・植生の謎を解く』。実際の風景写真を見ながら解説を読めるので、とても興味津々で楽しめました。みなさんも、ぜひ読んで(眺めて)みてください☆
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