『[カラー版] 昆虫学者、奇跡の図鑑を作る (幻冬舎新書)』2022/9/28
丸山 宗利 (著)

『学研の図鑑LIVE 昆虫 新版』の監修を任された丸山さんが、その舞台裏を全て見せてくれる、愛と涙の昆虫図鑑制作日記……無謀な挑戦に命を燃やした虫好きたちが奮闘した1年(2021年春から2022年春)の全記録です☆
「図鑑」は大好きなのですが……正直に言うと昆虫はさほど好きではありません。それでも、この本を読んだら、虫好きの人たちのあまりの熱気に感化されて、なんか虫って、もしかしたら素敵かも……なんて思ってしまいました(笑 単純)。たぶんこの本を読まなかったら、『学研の図鑑LIVE 昆虫 新版』を見ても、ただの普通の昆虫図鑑の一つとしか思わなかったと思いますが、この本でその制作舞台裏を知ったことで、まさに「奇跡の図鑑」としか思えなくなりました☆ この図鑑づくりに関わったみなさま、本当に素晴らしい図鑑をありがとうございます。
 さて、昆虫好きというほどでもない私をこんなに興奮させた『学研の図鑑LIVE 昆虫 新版』、何が凄いかというと、「これまでにない種数(2800種以上)が生きたまま掲載されるという前代未聞の内容で、しかも多くの研究者が関わり、中身も素晴らしく充実したものになっている」という点! なんと「全種生体、白バック撮影」に挑戦しているのです! 実はこれまでの図鑑は、「昆虫の絵や標本の写真を並べたもの」が多いのだとか。実際に、ウンモンテントウという昆虫の「標本」白バック写真と、今回撮影された「生体」白バック写真とを並べてみると、色も生き生きした感じもまったく違っているのです。……こんなに違うんだ……。
 あ、そうそう、この『[カラー版] 昆虫学者、奇跡の図鑑を作る』は、こんな風に、奇跡の図鑑『学研の図鑑LIVE 昆虫 新版』制作で使われた昆虫などの写真をカラーで見ることが出来るんです。しかもかなり珍しい写真が厳選されています。中には、図鑑に掲載できなかった珍しい昆虫写真まで……(1年で35000枚、7000種近い昆虫写真を撮影したので、珍しい昆虫でも選ばれそこなった可哀そうな虫がたくさんいるのです……涙)。また図鑑制作に関わった虫好きのみなさんの昆虫採集風景や、撮影の状況、虫の保管など、さまざまな写真も見ることが出来て、これもとても見ごたえがありました。
『学研の図鑑LIVE 昆虫 新版』は、丸山さんの望む図鑑の二つの理想を叶えたいという思いから作られています。一つ目の理想は、「昆虫の多様性と、どのようにして多様になったのか、その進化の道筋を分かるようにしたい」ということ。そして二つ目は、「すべての昆虫を生きた姿の写真で掲載する」ということだそうです。この二つ目の理想のための写真は、これまでの大きな図鑑にはあまりなかったので、今回ほとんどの写真を撮り下ろすことになったのだとか。……でも、これが本当に大変! なにしろ生きている昆虫はじっとしてくれませんから! その困難さの一部を紹介すると次のような感じ。
・昆虫には形が変わるものがあり、撮影する季節や季節や時間が限られる種が多い(数時間で死んでしまう虫や、季節によって色が変わる虫もいる)。
・悪天候の時には昆虫が採取できない。
・野外の採取&撮影ではマダニなどに悩まされる。深い山や崖など危険な場所も多い。
・蝶の多くは翅を閉じてとまるので、白い背景で上手く開いてはくれない。しかも暴れると鱗粉がとれてしまって再撮影できなくなる。
・ハエは写真だけでは種名を調べるのが困難で、撮影後に標本にして残し、専門家に見てもらう必要がある。
・水中昆虫を生きたまま撮影するには、水に入れて撮影する必要がある(光の加減が難しい)
・トンボは死ぬと色が変わってしまう(弱っても色が変わる)。
・甲虫は輝きを活かした撮影をする必要がある。
・特別保護区など許可が必要な場所にいる昆虫もいる(商用の図鑑に使えるかが問題に)。
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 この本には、これらの困難な状況にいかに立ち向かったかが如実に記録されているのです。いろいろな工夫も知ることが出来ました。その一部を紹介すると、次のような感じ。
・昆虫の動きを止めるには、「二酸化炭素で麻酔する」「何かをかぶせる」といい。
・卵や幼虫(イモムシなど)から飼育し、成虫にして撮影することもある。
・生きた昆虫を仮死状態にして展翅して撮影することもある。
・深度合成撮影法(同じ被写体を複数撮影してピントの良いところだけを合成し1枚の写真にする)。
・白い撮影ボックスに囮のライトをセットして周りを暗くすると、昆虫が白い撮影ボックスに入ってくれることが多い。
・困った時には、昆虫好きをツィッターで見つけて、協力してもらったこともある(全国の愛好者の方が助けて(応援して)くれたようです)。
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 いやー、もう、いろんな『図鑑』たちに足を向けて寝られないような……本当に頭が下がる思いです……ありがとうございます。
 ……そして結果的にこの図鑑、かなり分厚くなってしまったとか! 学研の編集者の牧野さんに笑いながら言われたそうです。「丸山さんのせいでこうなりました。」
 その牧野さんのコラムも本書の終りごろにあり、編集者は図鑑に使う「紙」についても真摯に考えて決めていることを知りました。
「図鑑は10年以上売ることを見越したロングセラー商品なので、途中で紙が変わることなどあってはならない」そうです。しかも今回の図鑑は「子ども向け」なので、できるだけ本を軽くする必要もあります。そこで求められたのは、ある程度の紙の厚さを保持したまま軽くする(密度を下げる)けれども、印刷の仕上がりは落とさないという難題……これに三菱製紙が応えてくれたそうです。
 いろんな人々の熱意と奮闘で、図鑑が完成しているんですね……そして、この図鑑は、人気のロングセラーとなり、これをベースに、今後も進化していってくれることでしょう。
 とても面白くて昆虫の勉強になる、すてきな昆虫図鑑制作秘話でした。この図鑑制作の過程では、「ガッケンホソカワゲラ」という新種の発見まであったそうです。
 制作に関わった人々が書いたコラムもあって、その昆虫好きっぷりに思わず爆笑してしまうこともあったほど、とても楽しく読めました。
 昆虫好きのお子さんがいる方は、ぜひ『学研の図鑑LIVE 昆虫 新版』とともに、この本もお子さんに読ませてあげてください(この本は大人向けなので、読むのはちょっと大変かもしれませんが……)。きっと、ますます昆虫好き&図鑑好きになること間違いなし! キラキラした目で図鑑をめくる様子が目に浮かびます……だんぜん、お勧めです☆
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 以下の商品リンクでは、本書の他、『昆虫 新版 (学研の図鑑LIVE(ライブ))』を、そして丸山さんが制作に関わった他の図鑑(これも本書に顛末記があります)『驚異の標本箱 -昆虫-』、『角川の集める図鑑GET! 昆虫』を紹介しています。
 さらに『学研の図鑑LIVE』と並ぶ図鑑御三家の『DVD付 新版 昆虫 (小学館の図鑑 NEO)』、『昆虫 新訂版 (講談社の動く図鑑MOVE)』の他、『昆虫 (ポプラディア大図鑑WONDA)』も紹介しています。
 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
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