『人は死ねない 超長寿時代に向けた20の視点』2022/6/22
奥真也 (著)
超長寿時代は、人生の時間が長くなる一方で、体に致死的でない小さな不調を抱えながら生きる人が大量に増える時代……老化や未来の医療のあり方を通じて、超長寿時代の「死」とは何かを深く考察している本です。
「第1章:あらゆる病気は克服されていく――人生120年が現実味を帯びる現代」では、病気の克服が「生のあり方」を変え、「死のあり方」を変えていることが示されます。
現代人の平均寿命はどんどん延長されていますが、それは、医療技術、抗生物質、画像診断、遺伝子解析、人工臓器、AI診断などの進歩で今後も延長されていくことでしょう。また現代人は、栄養状態改善、喫煙率低下、救急医療体制充実などにより、基礎体力自体も向上していますし、予防医学(遺伝子解析、身体に装着するIoT機器によるセンシング)も進んでいます。人間が本当に120歳まで生きられる時代は、すぐそこまで来ているのです。
それでも……老化はまだ避けられませんし、病気をかかえながら生きる期間が長くなるのかもしれません。「第2章:健康とお金の関係はこう変わる―─経済力が「長生きの質」を決める」では、寿命が増えた分だけ医療費を使う機会が増えることや、国の医療保険が財政的に大きな負担となりすぎて、将来、保険でカバーされるのは致死的な病気だけになり、それ以外の治療は自己負担になる可能性があることが指摘されます。……うーん、そうですよね……。
そして「第3章:ゆらぐ死生観─―自分なりの「死のあり方」を持つ」では、未来の死のプロセスが変わっていくことが、次のように語られます。
「20世紀の死は、1)突然死型にせよ、2)恐怖型にせよ、事前の予測がつかないのが特徴です。充実した救急医療体制も有効な治療法もなく、抗いたくても抗うことはできません。病気になった人はほとんど為すすべもなく、死ぬにまかせるしかありませんでした。
それに比べると、未来の死のプロセスは事前にある程度の予測を立てることができます。(中略)人間が高齢化した末にどのような経過をたどって死を迎えるか、何歳ぐらいを境にどんな病気や不調に見舞われやすいかというデータもあります。知識があれば、晩年に起こりうる骨折や認知症に備えて準備をすることもできるのです。」
……なるほど、確かに……。
さらに「第4章:誰が死のオーナーか─―死を取り巻く問題を考える」では、延命治療や安楽死のことを深く考えさせられました。
驚かされたのは、「安楽死が法制化されている国がある」ということ! 次のように書いてありました。
「世界には、安楽死を法制化している国や地域があります。スイス、オランダ、ベルギー、ルクセンブルク、カナダ、オーストラリアのヴィクトリア州、韓国、アメリカの一部の州とコロンビア特別区がそうです。ニュージーランドでは国民投票の結果を受けて2021年11月に安楽死法が施行されました。」
なお、スイスでは外国人への自殺幇助も認められていて、他国からの「デスツーリズム」が行われているそうです……。
また臓器移植についても、「近年、欧州では必要な法改正を行い、事前の不同意が明確でなければ臓器提供は自動的に行われることが明確化されました。」という動きがあるようで、むしろこの方が、提供側の精神的負担が少ないように感じました。
そして最後の「第5章:未来の死を考えるための20の視点」では、「未来の死」をショートストーリーで垣間見ることができるようになっています。
例えば「視点1 肉体がなければ、衰えることもない」は、「スーパー肉体」による長生きの他、アバターに脳の情報を引き継がせる「肉体なし」長生きプランの話。自分の身に現実に、こんなことが起ったら……をリアルに想像させてくれるのです。
ここですごく心が揺り動かされたのが、「視点18 お迎えサービス」。これは「安楽死サービス」で、なんと「こちらが予期しないタイミングで、「確実」に死を届けてくれるサービス」なのです(お迎えの待期期間は1、3、10年から選べる)。……これは、理想的な「ピンピンコロリ」を実現させてくれるサービスなのかも、と思わされる一方で、これを実現させる側(殺し屋)の精神的負担はどうなるんだろう……との懸念も。なんか、小説のネタになりそうですね……。
「超長寿時代に向けた20の視点」を与えてくれる本でした。考えさせられることがとても多くて、すごく有意義だったと思います。みなさんも、ぜひ一度、読んでみてください。
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