『パンデミック監視社会 (ちくま新書)』2022/3/10
デイヴィッド・ライアン (著), 松本 剛史 (監修, 翻訳)
新型コロナウイルスのパンデミックは、監視技術の世界的大流行をも招きました。加速する監視資本主義とデータ主義は社会をどう変えるのか……その脅威に迫っている本です。
「1章 決定的瞬間」には、次のように書いてありました。
「(前略)「パンデミック監視」という言葉には、少なくとも二つの意味が与えられるのではないかと思える。一つはあきらかにパンデミックに促された広範な監視の構想が存在することで、これは精査していく必要がある。もう一つは、そうしたかたちの監視がどんどん成長して成長を遂げ、「ウイルス的」といってもいいほどの拡大していることだ。いわば監視の世界的流行である。」
例えば2020年4月、インド政府は「アローギャ・セツ」という「接触確認、症状マッピング、自己評価のためのツール」を導入しましたが、これを違憲・プライバシー侵害と訴える請願書が出されています。
新型コロナウイルスのパンデミックは想像を超えるスピードで蔓延していったため、多くの監視システムが、適切だと考えられる民主的議論や手続きを経ないままに開発されてきました。
世界中の政府とプラットフォームが共謀して強力な体制を作っている例が非常に多く、そこで用いられる強力なデータ処理の手段は、人間の自由と公平性を蝕みかねないもので、テクノソリューショニズムと性急さが、パンデミックの対応と管理の際立った特徴となっています。
次のような問題も指摘されていました。
「貧困層や周縁化された層、不可視化された層はどれも、パンデミックではさらに不利な立場になることが多い。最も影響を受けやすいのはマイノリティと貧しい人たちだ。」
「(前略)監視研究できわめて重要な部分とは、感染症そのものがもたらす不公平な影響だけでなく、それに関連して行われる監視が生み出す不公平な影響をも考えていくということなのだ。」
「たとえば英国では、政府はパンデミックの間に取得した個人データを二〇年間保存する予定だが、いかなる個人にも自身の記録を削除する権利は与えられない。人権団体はこのデータが他の目的に使用されることを懸念し、そもそも政府はデータの収集と分析を始める前に、しかるべきデータ保護影響評価を行っていなかったと指摘している。」
そして「7章 希望への扉」には、次のように、さまざまな問題とともに、今後に向けた解決策が提示されていました。
「パンデミックのために急きょ案出された実験的な技術的「ソリューション」があきらかなマイナス面があるにもかかわらず、今後も長期にわたって使われたり、「通常の」もしくは「必要な」監視であるように誤って受け取られる可能性は少なくない。それを避けるには、適切な倫理の方向性とともに、法による制限や国際的合意のある規制、さらには市民社会による公的な監視が必要になるだろう。」
「データ保護、情報、プライバシーに関わる機関は多くの国に存在し、見張り役としての重要な役割を担っている。官民の両方による監視活動の合法性をモニタリングし、データの公正かつ適切な取り扱いを規定する新たな時代に合った法律の制定を促しているのだ。データの新たな利用は本当に必要なのか、またその必要性と釣り合ったものなのか、規制担当者はデータの収集や分析について、とくに新しい、または「緊急時」の対応に際しては、こうした疑問を持たなくてはならない。
ここでは、プラットフォーム企業からの集計データがどう共有されるかが重要な問題になる。」
「監視が大きな役割を果たすデータ関連の活動では、その枠組みは技術ではなく、人間を主体とするものであるべきだ。言い換えるなら、技術は人間の必要のために、さらにいえば人類の繁栄のために創り出されるもので、その逆であってはならないのだ。」
……その通りだと思います。
現在(2022年)も収束のきざしを見せていない新型コロナのパンデミック。これまでなされてきたパンデミックを抑えるための努力(ワクチン、創薬、生活習慣の改善、隔離チェックシステム、在宅勤務、オンラインショップ利用の増加など)は、一定の成果をあげてきたと思いますし、実施スピードの優先のために、法的な手続きやプライバシー保護が後回しにされてきたことも、ある程度仕方がなかったのだとも思います。
それでも今後は、適切な倫理の方向性とともに、法による制限や国際的合意のある規制、市民社会による公的な監視や、監視活動の合法性をモニタリングする仕組みを作っていく必要があるのではないでしょうか。
パンデミックとともに生きる、今後の社会のあり方を考えさせてくれる本でした。ここで紹介した以外にも、たくさんの問題・事例・解決方法が書いてあり、とても参考になります。みなさんも、ぜひ読んでみてください。
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