『賢い人がなぜ決断を誤るのか?』2021/7/1
オリヴィエ・シボニー (著), 野中 香方子 (翻訳)

 無意識のうちに判断をねじ曲げる「バイアス」と戦う方法を教えてくれる本。数多くの失敗事例を通じて「認知バイアス」とは何かを解き明かすと同時に、バイアスと戦う方法を、世界最先端の組織が実践している「40のテクニック」を中心にわかりやすく解説してくれます。主な内容は次の通りです。
■第1部 九つのトラップ
第1章 できすぎた話──ストーリーテリング・トラップ
第2章 スティーブ・ジョブズはかくも天才だった──模倣トラップ
第3章 どこかで見た覚えがある──直感トラップ
第4章 とにかく突き進め──自信過剰トラップ
第5章 なぜ、波風を立てるのか ?──惰性トラップ
第6章 君にはリスクを取ってほしい──リスク認知トラップ
第7章 長期的に考えるのはずっと先にしよう──時間軸トラップ
第8章 誰もがそうしている──集団思考トラップ
第9章 私利私欲のためではない──利益相反トラップ
■第2部 意思決定の方法を決める
第10章 あまりに人間らしい──認知バイアスは諸悪の根源か ?
第11章 戦闘に負け、戦争に勝つ──自らのバイアスを克服できるか ?
第12章 失敗が許されない時──協働とプロセス
第13章 よい判断とは、正しい方法で下された判断──「予言ダコ」のパウルは優れた意思決定者か ?
■第3部 意思決定アーキテクト
第14章 対話──多様な視点を持つ
第15章 意見の相違──異なる角度から物事を見る
第16章 組織の力学──意思決定のプロセスと文化を変える
おわりに あなたは素晴らしい意思決定を下そうとしている
付録1 バイアスの五つのグループ
付録2 よりよい意思決定のための40のテクニック
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 なかでも特に役に立つと思ったのが、巻末の二つの付録。
「付録1 バイアスの五つのグループ」は、次の5種類のバイアスに、具体的にはどんな行動などが含まれるのかを、より詳しく一覧表で示してくれます。これを壁に貼っておくと、自分がこのバイアスに陥っていないかを自問するのに役に立ちそう(ここでは5種類のバイアスの大分類のみを紹介します)
1)パターン認識バイアス(確証バイアスなど)は、最初に考える仮説に影響する
2)アクション・バイアス(自信過剰など)は、するべきでないことを私たちにさせる
3)惰性バイアス(アンカリング、現状維持など)は、私たちの動きを止めて失敗させる
4)社会的バイアスは、組織のミスを招く
5)利益バイアスは、意思決定者の判断をゆがめる
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 そして「付録2 よりよい意思決定のための40のテクニック」は、組織がよりよい意思決定を行うためにすべきことを「1 対話を指揮する」、「2 意見の相違を促す」、「3 素早い意思決定の風土をつくる」の3分類ごとに一覧表で教えてくれます。
 そのうち「1 対話を指揮する」のテクニックを紹介すると以下のような感じ。
・認知的に多様な(物事の見方・考え方が多様な)メンバーを集める
・真の議論をするために、十分に時間を割く
・対話を議題にする。「決定」のためか「議論」のためか、議題ごとに区別する
・パワーポイントの使用を制限し、代わりにメモを使うことを検討する
・誤解を招くたとえや、ストーリーテリングを禁じる
・冷却期間を設けて、性急に結論を出さない
・各参加者の「バランスシート」を尋ね、異なる見方を奨励する
・「悪魔の代弁者(あえて反対する人)」を議論に参加させる
・提案者に二つ以上の提案を求める
・検討中の選択肢を実行できなくなったらどうするか、自問する
・提案者に異なるストーリーを語らせる
・プレモータム(検死)を行う(プロジェクトが失敗した未来を予測し、失敗原因を特定するために事前の検死を実行する)
・臨時委員会を編成する
・難問をリストアップしたメモを、意思決定の時に読み返す
・忘れてはならないのは、議論にデッドラインを設けること
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 ここでは項目のみが一覧化されていますが、本書内では、その内容が具体的に説明されています。(この項目の脇にページが書いてあるので、参考書として利用しやすくなっています。)
 この本は、「認知バイアス」について総合的に解説してくれるだけでなく、それにどう対処すべきかについても具体的にアドバイスしてくれます。しかも上記二つの付録がついているので、参考書としても、すごく使える素晴らしい本だと思います。
 ただ……個人的には自分の「バイアス」をなくすことは出来ないような気がします。というのも、たとえ毎日この付録のバイアス一覧表を眺めて自戒したとしても、そのとき自分がそもそもバイアスに陥っているかどうかにすら、気づきにくいと感じたからです。そのことは、本書でも数か所で指摘されていました。例えば「第11章 戦闘に負け、戦争に勝つ──自らのバイアスを克服できるか ?」には次のように書いてあります。
「要するに、自身のバイアスを把握するのは非常に難しく、どのバイアスを是正すべきかを事前に知るのは不可能だ。また、仮にバイアスのない意思決定を下せたとしても、それがメリットよりデメリットをもたらすおそれがある。バイアスは取り除こうとしても取り除けるものではない。バイアスと戦おうとする時、自助努力では太刀打ちできない。」
「つまり個人のバイアスやそれを打ち消すことに執着するのは時間の無駄だ。組織の意思決定を改善するには、組織の意思決定方法を改善しなければならない。」
「(リーダーの)意思決定のプロセスには、集団的な側面が必要だ。戦略的選択に直面した賢明なリーダーは、チームを信頼し、専門家や取締役会に相談し、アドバイザーと対話する。(中略)リーダーは、バイアスとの個人戦での敗北を認めることによって、間違った意思決定を避けるための集団戦で勝つチャンスを広げることができる。」
 ……だからこそ、本書では、重要な意思決定をする時には、組織(複数の人)の助けを借りるべきだとして、そのためのアドバイス(「付録2 よりよい意思決定のための40のテクニック」など)もあるのです。
 この他にも、「ストーリーを聞かされると、その反証になるデータを探すよりも裏付けるデータを探そうとしてしまう。」とか、「(前略)私たちはみな、自分の意見と対立する煩わしい話より、補強してくれる好ましいストーリーを受け入れやすい。」とか、「多くの組織において「順調な会議」とは、議論がない会議を指すが、これは集団思考、確証バイアス、自信過剰、利益バイアスなど多くのバイアスの下地をつくってしまう。」とか、心に留めておきたい指摘やアドバイスをたくさん読むことができました。
「認知バイアス」とは何かを解き明かすと同時に、バイアスと戦う方法を総合的に教えてくれる参考書です。より正しい決断をしたいと望んでいる方は、ぜひ読んでみてください。お勧めです☆
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