『地図リテラシー入門―地図の正しい読み方・描き方がわかる』2021/8/26
羽田 康祐 (著)

「地図とは何か」からはじまり、「地図の誤った使われ方」を通して「地図の正しい作法」「地図のしくみ」など地図に関する知識を、フルカラーで豊富な図版とともに詳しく説明してくれる「地図の教科書」で、内容は次の通りです。
第1章 地図はなにを伝えているのか
第2章 地図のおかしな使われ方
第3章 伝えられる地図の作法
第4章 より伝わる地図にするための工夫
第5章 世界が丸いことを理解する
第6章 紙地図から電子地図とGISへ

『地図リテラシー入門』という名前だったので、「文(学校)」などの地図記号を含めた「地図の読み方」を教えてくれる本なのだろうと想像していたのですが、それよりも、もっと基本的な「地図」に関する知識を教えてくれる本でした(なお、地図記号などに関する詳しい説明はありません)。「はじめに」には、次の記述がありました。
「本書では、「地図リテラシー」として、「主題図」「地図投影法」「地理情報システム(GIS)」の3つのキーワードに焦点を当てました。」
 地図には、情報がまんべんなく描かれた地図の「一般図」、特定の情報を強調して描いた地図の「主題図」など、いろいろな種類のものがあるそうです。
 そして「主題図」には、「位置図」「外観図」「索引図」「定性図(塗分け図)」「階級区分図」「等濃図」「点描図」「図形表現図(棒グラフ・積み上げグラフ・比例記号図・円グラフ・階級記号図・実態図)」「流線図」「メッシュ図」「等値線図」「段彩図」「変形地図」「絵地図」「カラム地図」「分布図」「統計図」などがあり、主題によって、どんな種類の地図を使うか、色分けをどうするか等に関する解説がありました。例えば、「色から受ける印象」を利用して、危険な箇所には「赤」を使うことが多いですが、水害の場合だけは浸水区域が「青」で表現されるとか、人が塗り分けを認識できる数は10程度なので、それ以内に収まるよう調整した方がいい、などの解説がありました。
 また地図を読むうえですごく重要なことだと思ったのは、「地図投影法」についての知識。地球は「球体」なのに、地図はそれを「平面」で表さなければいけないので、「歪み」が避けられないということは、学生時代に「メルカトル図法では高緯度ほど面積の歪みが大きくなる」ことを教えられたので、一応知ってはいたのですが、この本ではそれを「みっちり」丁寧に説明してくれます。……方向音痴で「図形」も苦手な私としては、正直に言って、ちょっと頭がくらくらしてしまいましたが、「どんな地図もどこかに歪みがあり、それを心得て使うべきだ」ということだけは、しっかり理解できました。この本にも、次のように書いてあります。
「地図の正確さを決めるための要素は、距離・面積・角度・方位の4種類があります。球は正確に平面に展開することができないため、4種類の要素すべてを正確に地図上に表現することはできません。もし、面積の正確さを得たいなら、角度の正確さを犠牲にします。なにかを得るためには、なにかを捨てなければいけないのです。」
 さて、現在では、Googleマップの影響で、世界の様子はほとんどが「メルカトル図法」になっています。「メルカトル図法」は、極地に近づくにつれて歪みが大きくなりますが、船舶や航空機の航路を描くのに適しているなど、便利な面も多いようです。
 また「メルカトル図法」は低緯度では歪みが少ないし、低緯度でなくても狭い範囲で表示すれば歪みが少ないことにもなります。この特性を活かして、「正確に表現したい地域によって中央子午線を変更して、東西に狭い範囲で地図を作製する」準メルカトル図法という方法もあるそうです。
 この他にも、「地面の真下は地球の真裏ではない(地球を球とみなせば真下は地球の中心を通る方向だが、地球は回転楕円体なので楕円体面に対する垂直線は、赤道と極を除いては地球の中心を通らないから)」とか、「地図の上が必ず真北になるとは限らない(北には、真北(北極点方向)、磁北(方向磁石での北)、方眼北(地図上の真上)の3種類あり、それぞれ示す方向が微妙に違う)」など、いろいろな情報を知ることが出来ました。
 ちなみに「地図では上を必ず北にしなければいけない」わけではなく、建物の案内図の場合には、地図と向かい合った方向が「上」になっていた方が、読みやすくて便利だそうです。……これ、本当にそうなんです。デパートなどの売り場案内図で、地図と向かい合った方向が「上」でないと、見当違いの方向に行ってしまい迷子になることがあります……(涙)。案内図を作る方は、分かりやすい設置をお願いします。
 また登山の地図の場合は、地形図に描かれた図形の形状を忠実に読みながら歩いていて、あと〇回ったら分岐だと思っていても、なかなか分岐にたどり着かないことがあります。実は、これは総描によるもので、「地図に描かれた登山道は曲がっていることを伝えるために描かれていて、どのように曲がっているかまでは描き切れていない」からだそうです。……そうだったんだ……。
 でも、これに関しては、もしかしたら今後、少し改善されるかもしれません。次のようにも書いてありました。
「国土地理院の地形図の登山道は、情報が古いことから地図アプリの表示と比べて誤差が顕著に目立つため、近年は登山者が使う地図アプリから入手した大量の移動履歴からビッグデータ解析を行い、地図データを修正する取り組みが行われています。」
 地図の電子化が進んでいるので、今後は衛星画像だけでなく、このようなビッグデータ解析など、さまざまな技法も取り込んで、より正確で使いやすい地図になっていくことを願っています。
 地図を作る側の視点から、地図の正しい読み方や作り方を解説してくれる本でした。
 学生自体に「メルカトル図法の歪み」を学んだはずなのに、国土地理院発行の地図を見ると、とにかく正確なんだろうと妄信していましたが……どんな地図にも、誤差があるのは避けられないことを痛感させられました。また「主題図」を描くときには、見る人に誤解を与えないように描くよう注意しなければいけないとも考えさせられました。
「地図」について多角的に知ることが出来て、とても勉強になる本でした。みなさんもぜひ読んでみてください。
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
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