『「食」の未来で何が起きているのか? 「フードテック」のすごい世界 (青春新書INTELLIGENCE 635)』2021/10/2
石川 伸一 (監修)

「フード」と「テクノロジー」をかけ合わせたのが「フードテック」。大豆などの植物成分から作られた「代替肉」や、肉の細胞を増殖させて作る「培養肉」など、国内外の「食」の最前線ではどんな研究・開発、実用化が進んでいるのかを紹介してくれる本です。 冒頭には次のように書いてありました。
「今後、地球規模の人口爆発が起こり、肉をはじめとする食料は間違いなく供給不足となる。加えて一次産業や外食業界では人手不足が深刻化し、さらに新型コロナウイルスの流行もあって、以前の常識がますます通用しない時代になっていく。
 こうした深刻な問題を解決すべく、日本を含む世界各国は食のあらゆる面に最先端のテクノロジーを活用する大改革「フードテック」に臨んでいる。
 筋細胞を増殖させる培養肉、植物性たんぱく質による「代替肉」「代替魚」、遺伝子情報を変える「ゲノム編集」、料理を「印刷」する「3Dフードプリンター」、農業漁業の現場で活躍する「AI」「ロボット」「ドローン」、人の手を介さない「調理ロボット」、料理の技術を必要としない「スマート調理機器」。
 これらのイノベーションは、すでに実現しているものも多い。食の「未来」で何が起きているのか、私たちは何を食べているのか、確かな事例をもとに見ていこう。」
 ……ということで、第1章では、家畜や魚などの細胞を培養して作る培養肉、第2章では、植物由来の代替肉・代替卵・代替魚や、乳腺細胞を培養して作る培養牛乳・培養母乳、第3章では、昆虫食や魚の細胞を培養して作る培養魚、藻や菌糸体を培養して作る代替肉、第4章では、ロボットやAIを活用したスマート農業、第5章では、魚生産イノベーション(養殖など)、第6章では、外食産業の調理ロボット、第7章では、家庭用スマート調理機器、第8章では、フードテック+ヘルステックなど「食」に関する最先端の開発例を多数紹介してもらえます。……SFのような「食」の未来へ、いつの間にか着々と進んでいたんだなーと驚かされました。
 細胞から培養肉や、植物由来の代替肉などについては、ニュースなどで知っていましたが、「昆虫食」など、知らなかった情報もありました。今、昆虫食に注目が集まっているそうで、昆虫なら牛の4分の1ほどの飼料で同じ量のタンパク質を生産可能な上に、環境負荷も少ないようです。
「昆虫食は健康的な食材でもある。良質なたんぱく質が含まれるのはもちろん、鉄や銅、マグネシウム、マンガン、亜鉛といった微量栄養素の供給源となるからだ。病気に対する安全性も高い。畜産や養鶏の場合、危険なウイルス病や牛海綿状脳症(BSE)など、動物から人間に感染する病気の発生源となる可能性があるが、昆虫ならそういった危険性は非常に低い(ただし、アレルギーの研究については進んでいない)。」
 ……うーん。一流レストランで「蟻」を提供している写真を見たことがありますが……食べたいとは思いませんでした。でも粉末にして他の形に加工してあるなら、あまり抵抗なく食べられるかも。
 さらに驚いたのが、「二酸化炭素」から作るたんぱく質! 微生物を利用して、二酸化炭素からたんぱく質を作り出す「エアプロテイン」というものがあるそうです。
「技術のヒントは1960年代、NASAの取り組みにあった。資源がなく狭い宇宙空間でも食料を生産できないかと、当時のNASAは模索。植物が二酸化炭素からブドウ糖を作るように、二酸化炭素からたんぱく質を生み出すことのできる「ハイドロゲノトロフ」を発見した。(中略)
 エアプロテインは栄養価が高いことも特筆もの。人間が自分では作り出せない9つの必須アミノ酸をはじめ、不足しがちなビタミンB12などのビタミンB群やミネラルが豊富に含まれている。
 原料は二酸化炭素と微生物なので、本物の肉や培養肉、代替肉などで気になる農薬や除草剤、ホルモン剤、抗生物質などは使われておらず、遺伝子組換え技術とも無縁だ。温室効果ガスの一つ、二酸化炭素を原料とするということ自体が画期的。フードテックの先端を行く技術といっていいかもしれない。
 空気からたんぱく質を作り出す手法は、フィンランドのスタートアップ企業、ソーラーフーズも開発している。」
 ……今、地球温暖化で問題になっている二酸化炭素が、たんぱく質として活用できるなら、まさに一石二鳥ですね!
 またミドリムシ(ユーグレナ)も優れた食材のようです。
「健康食品なども。植物と動物、どちらの性質を持つことから、含まれている栄養素もじつに多彩。(中略)
 ミドリムシは狭い場所でも生産できるうえに成長も早く、適した環境かでは1日に2倍に増える。また、地球外では強烈な宇宙線(放射線)が降り注いでいるが、ミドリムシは放射線に強いので、宇宙でも問題なく育つと見られている。宇宙食の素材として申し分ないのだ。」
 ……そして魚と一緒に植物も生産できるという、新しいスタイルの陸上養殖もあるそうです。その動植物複合生産のメカニズムは、
「まず、魚の水槽の底から排泄物のまじった水をパイプに流し、水槽からつながるろ過装置まで持っていく。この装置内でアンモニアがろ過されて、植物の栄養になる硝酸態窒素に変化。ろ過装置から出た水はまた別のパイプを通じて、最中の水槽の上に設置された植物の入った水槽へと流れていく。
 植物はこの水に含まれた硝酸態窒素を栄養分として吸収。浄化された水は、魚のいる水槽へと落ちていく。こうした循環によって、水質を保つというシステムだ」
 ……これもまた一石二鳥のシステムのようです。凄いですね☆
 この他にも、冷蔵庫から食材を取り出すところから調理したものを皿に盛りつけるまでやってくれる新型調理ロボット「モーリーR」とか、食材購入から調理まですべてを制御する「キッチンOS」とか、便利そうな自動調理器の話も満載(もちろんレストランなどの業務用ロボットも)。
 最先端技術で変わっていく「食」の未来を総合的・具体的に紹介してくれる本でした。とても興味深い話が満載なので、「食」に関わる仕事をしている方はもちろん、未来社会がどうなっていくかを知りたい方も、ぜひ読んでみてください。
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
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