『巨匠に学ぶ構図の基本―名画はなぜ名画なのか?』2009/2/25
内田 広由紀 (著)
巨匠の作品を手本に、構図を軸に「名画」と「凡作(名画の一部改変)」を対比するという方法で、構図の基本を分かりやすく教えてくれる本です。フルカラーで多くの名作絵画を解説つきで見ることが出来て、とても楽しめました。
個人的にとても参考になったのが、「第1編 構図の基本型」の「構図の9型式」。次の9形式の絵画の構図が、作品事例(写真)を使って解説されています。
1)シンメトリー型(威厳・神聖・伝統を表す)
2)シンメトリー崩し型(優しく穏やかな自然を表す)
3)衛星型(開放的な華やかさを表す)
4)囲い込み型(周辺を包むと安心が表れる)
5)流水型(自然で自由な癒しを表す)
6)パノラマ型(楽しく開放的でのびのび)
7)対決型(厳しい緊張がドラマの始まり)
8)均一型(生命のリズム・心臓の鼓動)
9)片流れ型(都会的なスマートさを表す)
それぞれ「名画(オリジナル作品)」「凡作(一部改変作品)」で、その対比を見ながら構図の基本を学べるので、「なるほど、確かにオリジナルの方がいいかも……」とか、「こんな小さな違いで、印象はずいぶん変わるんだなー」とか、実感できます。
ここで特に面白かったのが、竹久夢二の「京の舞妓」。左右を鏡映逆転させた二枚が対比させてあるのですが、「私たちは右側に重心があると落ち着いた気持ちになります。反対に左に重心を置いて視線を右に流すと不安な気持ちになります。不安で儚く弱々しい感情を表すには、右流れの構図で描きます。」と書いてあって、実物を見ると、本当に「安定感」にかなりの違いがあります。不思議です。やっぱり左脳と右脳の機能的違いとか、心臓が左にあるとか、利き手が右手だとかいうことが関係しているのかな……うーん……。
そして「第2編 構図の組み立て」では、「構図の14要素」の、版面率、情報量、斜水性、ジャンプ率、プロポーション、粗密対比、曲直対比、鋭鈍対比、痩肥性、ひと気度、群化、バランス、アクセント、水平線の高さ、に関する解説があり、構図の組み立て方が分かったような気になります(笑)。
さらに「第3編 主役を引き立てる」の「絵画は5役4景で組み立てる」。これは、自分で絵を描くときに、主役をどのように扱うかを考えるのに、とても役に立つと感じました。
1)中央に・大きく・強く(主役を強める正攻法)
2)敵役をカット(主役が強くなる)
3)添え色(主役がはっきりする)
4)領地を広く(優しい主役がすっきり)
5)視線を集中する(小さな主役が注目を集める))
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ということで、名画と、その一部改変を対比させることで、「名画がなぜ素晴らしいのか」を実感できる、とても分かりやすい構図の本だと思います。
……ただ……個人的には、絵画は「自分の好み」で評価すればいいと思っているので、どんな構図の絵でも、自分が好きな絵であれば、それが名画なんだと思います。
この本の冒頭には、「名画の3条件」として「共感を生む、実感を感じさせる、歓迎感を表す」があげられていましたが、名画の条件はこれだけではないと思います。例えば、ピカソの「ゲルニカ」は、この3条件を満たしていないように思えますが、やっぱり名画だと思いますし……。
ということで、この本の「名画」と「凡作(一部改変された名画)」の区別は、ここで言われているほどの大きい差があるとは思いませんでしたが、初心者の方が「構図の基本」を学ぶためには、とても分かりやすくて参考になる本だと思います。また初心者でない方にとっても、初心者への絵画指導をする時に便利に使えるのではないかと思います(なお初心者でない方の中には、この本の「名画と凡作」の区別に異論がある方がいるのではないかと思いますが、それはその方の「独自の感性」だと思いますので、この本の「良い構図」の教えにとらわれずに、自分の感性を伸ばしていって欲しいと思います)。
「名画」と「凡作(一部改変された名画)」の対比という形で、本当に「一目で違いが分かる」構図の基本解説の本です。「名画」と「その一部改変」で、こんなに印象が変わるんだということを知ることが出来て、とても楽しめました。
絵が好きな方は、ぜひ眺めてみてください。お勧めです☆
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