『目に見える世界は幻想か? 物理学の思考法 (光文社新書)』2017/2/15
松原 隆彦 (著)
近代物理学の誕生の経緯、そして物理学に大きな革命をもたらした量子論と相対論の成り立ちを分かりやすく解説してくれる本です。
なんとこの本には、数式・図表がまったくありません。「物理学に嫌悪感を抱く人にとって、その主な原因は数式を使った計算にある」ことに気づいた松原さんが、主に文系出身者など、これまでほとんど物理学に縁がなかった人々に向けて書いた「物理学の入門書」なのです。
科学好きなのに、子どもの頃から数学や物理が苦手だった私にとって、科学雑誌などで「相対性理論」や「量子論」の「分かりやすい」解説書を読んでも、なんだか分かったような分からないようなモヤモヤした感じがあって、しまいに、「頭のいい数学(物理学)者の言うことは、なんだか、よく分からないや」と思考停止状態のまま終わる……という状態でしたが(汗)、この本を読んで、ようやく「物理学がどんな学問なのか」を知り、さらに「相対性理論」や「量子論」まで、ほんの少し分かったような気にさせていただきました。読み終わった今はもう、「本当に頭のいい数学(物理学)者って、すげーな!」という気持ちでいっぱいで、先生! 今後もご指導お願いします☆ と早くも次回作を期待したくなっています。
どうやら、私は「物理学」について「根本的な偏見」を抱いていたようなのでした。「物理学」は、数学が得意な人間にしか弟子入りが許されず、「××の法則」みたいなものは、この世界ができる前から存在していて、私たちはそれを教科書で習っている……そんなはずは、もちろん、なかったのです……(汗)。
「第1章 物理学の目的とは何か」には、次の記述がありました。
「物理学では、この世界がどういう規則で動いているかを見極めようとする。その方法として、できるだけ世の中の秩序だった動きを探し、それを徹底的に調べる。このため、物理学では、できるだけ物事が単純になるような状況を考えて、それを正確に表す方法を導き出す。」
……なるほど、そうだったんですか。物理学って、象牙の塔の遥か上の方にあるように感じていましたが、実は、文系の哲学や経済学とも近いものだったようです。
そして、この後は、「天上世界と地上世界は同じ法則によって動いていることを明らかにしたニュートン」や、「時間や空間が誰にとっても同じものではないことを示し、世界の見方を変えたアインシュタイン」など、偉大な数学(物理学)者が、どのような経緯で「××の法則」にたどり着いたかが説明されるのですが、これを読むことで、「近代物理学の歴史(誕生の経緯)」が分かるだけでなく、重力や電磁気力など、近代物理学の基礎知識を「数式や図表なしで」学ぶことが出来ました。
そして圧巻だったのが、「第3章 すべては原子で作られている」、「第4章 微小な世界へ分け入る」、「第5章 奇妙な量子の世界」。ここでは、相対性理論や量子論の生まれた経緯、その理論の概要が、すごく分かりやすく説明してもらえます。とりわけ「生まれた経緯」は、なぜ、その理論が必要になったのか、その理論で何が可能になってきたのかを知ることが出来て、苦手な物理学の話なのに、すごく引き込まれてしまいました。
また、ところどころで、「ずっと不思議だと思ってはいたけど、放っておいた謎」への解答を得ることも出来ました。例えば、「原子は光学顕微鏡では見えない」という事実(このため、20世紀初めごろまでは原子が本当に存在するのかどうかすら分からなかったのです)。その理由がよく分かっていなかったのですが(汗)、この本で、ようやく明確にできました。実は「波長より小さいものを見ることはできない」のだそうです。
「光が波立って見えずに、まっすぐ進む光線のように見えるという性質は、ものを見るのに必須の条件だ。物体の形を見てとるには、目に入ってきた光が物体のどの部分からやってきたのかを区別できなければならない。そのためには光の波長が物体よりも十分に短くなければならない。物体の大きさと同じぐらいかそれよりも長い波長の光では、物体の形を見ることができないのだ。原子の大きさは1ナノメートルよりも小さく、可視光の波長と比べて2~3桁ほど小さいサイズだ。このため、いくら倍率の高い光学顕微鏡を持ってきても原子を見ることはできないのである。」
……こんな感じで、いろいろな難しいことを、すごく丁寧に説明してくれます。物理学が、前より少しだけ、分かったような気にさせてもらえました。
かなり難しい内容ではありますが、この本を中学生か高校生の頃に読んでいれば、もう少し数学や物理学をやる気になれたかも、と残念に思ってしまいました。
文系の方に向けた本ですが、理系の方の復習(学習)にも役に立つと思います。中学生以上の、すべての方に、ぜひ読んで欲しい「物理学の入門書」です。科学好きの方には、とくにお勧めです☆
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なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
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