『文系でもよくわかる 日常の不思議を物理学で知る (文系でもよくわかる物理学)』2020/7/17
松原 隆彦 (著)
最先端の物理学で日常の「不思議」を解き明かしてくれる本で、「文系でもよくわかる物理学」シリーズ第二弾です。
とても面白かったのが「1章 時間は流れない」。「時間が流れるとは限らない」そうです。
え? 時間は流れているよねー、実感として。まーた物理学者の屁理屈か……という気分にちょっとなりましたが(汗)、次の記述に、ああ、そういうことか! と納得させられました。
「物理学の理論では、過去から未来までのセットがそこにあって、それを順番に見ていくことで動きが出てくるというような構造になっている。たとえるなら、パラパラ漫画のようなものだ。パラパラとめくれば動いているように見えるが、実際にあるのは、「このときにはこうなっている」というたくさんの静止画にすぎない。」
パラパラ漫画! 一つ一つは「静止」しているけど、全体としては「動いて」見える。なるほどー、物理学者は時間をそう把握しているんですね(笑)。すごく腑に落ちました。
「物理学において時間とは単なるラベル。実験で確かめられない以上、どんなに美しい理論も仮説でしかない。」
「「流れる」という性質は、物理学の理論上存在しない。」
……こういう態度は、「科学的」にすごく大切なことだと思います。もっとも「量子論」には実験で確かめられていないことがまだまだ多いし、「宇宙論」にもそういうものが多かったような……そして、どっちも「物理学」の範疇だったような……という気もしますが、「実験で確かめられるか否か」を厳格に区別しておくことが大事であることは間違いありません。そういう意味で、「時間」はまだ、厳密であるべき「物理学」ではなく、自由な思索が許される「哲学」の対象なのかもしれません。
そして「3章 魔法の角度をもつ水」も、とても面白く読めました。
「水は4度の状態の時がいちばん重く、氷になると軽くなる。冬になっても湖の底で魚が生きていけるのは、氷が水に浮かぶから。」
「水は熱しにくく冷めにくい。温度が変わりにくいから、海の多い地球は生命が生きやすい。」
「水の性質を左右しているのが、104.5度という絶妙な角度。」
「水分子全体では電気的に中性だが、水素原子と酸素原子が180度にまっすぐにつながっているのではなく、104.5度という角度をもち、「く」の字になっているため、水素原子側はややプラスに、酸素原子側はややマイナスになる。つまり、分子の中で電気の偏りが生じている。そうすると、ややプラスになる水素原子は、他の水分子の酸素原子を引き寄せやすく、ややマイナスになる酸素原子は、他の水素原子を引き寄せやすくなり、分子と分子の間に引っ張り合う力が働く。これを「水素結合」という。」
……水って、とても不思議で素敵なものですね。
こんな感じで、身近な「不思議」を、物理学的に分かりやすく説明してくれる本でした。
この他にも、「2章 スマホに使われている物理学」、「4章 生活に隠れた物理学」、「5章 医療をささえる物理学」、「6章 物理学者の今と昔」など、「身近な不思議」を解きあかしてくれます。
「終章 日常の「あたりまえ」は「あたりまえ」ではないかもしれない」の「そこにモノは存在するのか」の解説は、この本を読んだ後でも、実感として本当に不思議です。
「原子の中身はすかすか。原子の集まりであるものも私たちの身体もすかすか。すかすか同士だが、原子を覆う電子のマイナスとマイナスが反発するため通り抜けられない。」
「押せば形が変わるような「やわらかい」物はというと、それは原子の配列の違いによる。無数の原子がきれいに並ぶことでその物の形を保っているが、原子の並び方を変形することができる物もある。それが、「やわらかい」ということ。」
……鉄板も「すかすか」なのに、あんなに硬いのか……うーん……。
こんな感じて「身近な不思議」を、教科書的というよりは、「科学エッセイ的」な感じに解説してくれるので、気軽な読み物感覚で読めます。受験のための物理の知識をつけたいという方には物足りないかもしれませんが、物理(科学)的な考え方を身につけたい、お子さんからの「なぜなぜ攻撃」にちゃんと対応したいと考えている方には、とても参考になるのではないでしょうか。ぜひ読んでみてください。
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