『知の越境法 「質問力」を磨く (光文社新書)』2018/6/13
池上彰 (著)
NHKの「週刊こどもニュース」をはじめ、世界で起こる問題を誰もが分かる言葉で解説してくれる池上彰さんが、自身の経験を通して、異動・転身は、現状を脱し新天地に飛び込むという意味で「越境」であり積極的な行為だと、その効用と実践法を説いてくれる「越境のススメ」です。
池上さんはNHK時代に、本当にさまざまな部門での経験を積んだようですが、ふと気づくと「専門性がなく」、希望していた解説委員になることは出来なかったそうです。そこで、自分の強みは何かを考えたところ、むしろ「専門性がない=何でも幅広く知っている」ことではないかと気づいたとか。
「ある程度の専門性を持ちながらも、他分野にわたり、基礎・基本から分かりやすく解説する――それが私のスタイルだと気づきました。」
そして転機になったのが、あの「週刊こどもニュース」だそうです。
「私にとって「週刊こどもニュース」とは、根本から知のあり方を洗い直された取り組みでした。大人でも分かりにくいニュースをこどもが分かるように伝えるには、普通の認識ではまったく間に合いません。核心まで届いていないと、シンプルに説明できないのです。」
「「週刊こどもニュース」で鍛えられたおかげで、「なるべく分かりやすく」とともに、常に基本に立ち返るというのが習慣になりました。そのせいか、人の知らないこと、曖昧にすませていることに気づくことが多くなりました。
もう一ついえば、基本や原点に帰ると、応用が幅広くできる、ということがあります。この本のテーマでいえば、越境がしやすくなる、ということです。」
……まさにその通りですね。私も池上さんの「週刊こどもニュース」、毎週楽しみに視聴していました。とっくに子どもではなかったのですが、あの分かりやすい解説を聞くと、大人にとって「いまさら聞けない」ようなことが理解できて、すごく勉強になったからです(本当にありがとうございます。これからも、よろしくお願いします)。
この本は、池上さんの自伝(NHK時代からTVで活躍するフリージャーナリストへ)を通して、逆境でも何かをつかむポジティブさや、ジャーナリストとしての姿勢(質問力も)を知ることが出来ます。心に響く名言を、いくつも見つけることが出来ました。
「執筆のために読む参考図書は膨大な量になりました。」
「企業コンサルタントも仕事の依頼があると、関連本を読み漁るそうです。彼らには流通、金融、不動産、製造業、とさまざまな業種の会社から相談が持ち込まれます。その業界で何が起きていて、問題は何で、これからどういう方向性が考えられるか、数冊の本を買い込んできて、下準備をしたうえで相手とのミーティングに向かうそうです。短時間で課題を見つけるには、やはり定番の本にあたるのが近道だと言います。
これは異分野に越境するときの正攻法です。」
「自分が「理解できた」ということと、他人に説明できるくらいに「理解できた」ということの間には、大きな溝があるのです。
他人に説明できるまでに「理解できた」と言えるようになるためには、自分が学んだり見聞きしたりした内容をどう相手に伝えるかを常に意識することが重要です。」
「自分の意思に関係なく仕事の担当部署が変わる。でも、そこで腐ることなく、一生懸命勉強すると、いずれ成果が花開く。それを経験してきました。いまの自分があるのは、「越境」の繰り返しのおかげです。」
「(知識や経験の)引き出しを多く持ち、引き出しを頻繁に出し入れしていると、別の引き出しの内容とつながってしまうのです。」
「若者、ばか者、はぐれもの――いずれも越境のエネルギーを持った人たちばかりです。この人たちは、簡単に越境します。この人たちが未知の領域に進むおかげで、未来が拓けるのです。」
などなど。
また「第6章 越境のための質問力を磨く」では、そのための実践的な方法も教えてもらえました。
「質問をするためには、何が分からないか分かっていないとだめなのです。」
「人の話を聞くときは、必ず相手と斜め45度になるように座ります(話しやすい環境を作ることが大事)」
「忘れてはいけないのは、「リスペクト光線」を出すということです。」
などなど。
ポジティブな気持ちで、常に学び続けることが「知の越境法」の極意なのだと感じました。
「自分にとって異なる文化と接すること。自分が属している組織に異質な存在を送り込むこと。それによって多様性を生み出すこと。
自分を、そして組織を活性化するには、それが必要なのではないでしょうか。
越境の意味はそこにあると考えます。進歩が止まった、どうも澱みがちだ、すっきりしない--そう思ったときに、ちょっといつもの道を外れ、隣の道を進んでみる、角度が変わっただけで風景が違って見えます。」
……ジャーナリストを目指す方はもちろん、すべての方にとって参考になり、勇気ももらえる本だと思います。ぜひ読んでみてください☆
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なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
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