『転形期の世界 パンデミックの後のビジョン (PHP新書)』2021/9/15
Voice編集部 (編集)

 パンデミック、大国間競争の本格化、地球環境問題の深刻化など、人類は大きな曲がり角、いわば「転形期」の只中にいます。この局面を乗り越えるための視座とビジョンと、日本が果たしうる役割を考える、というコンセプトのもと、パンデミック以降に月刊『Voice』に掲載された論考やインタビューの一部を、一冊にまとめた本で、掲載されている「論考」は次の通りです。
柳井正「サステナビリティと成長を両立せよ」
小林喜光「『境界線なき時代』に生き残る企業」
マルクス・ガブリエル「日本は『世界一』の倫理国家だ」
養老孟司「『情報処理』に偏重する人類の愚」
宇野重規「現代版『直接民主主義』を構築せよ」
レベッカ・ヘンダーソン「環境問題を解決する資本主義」
御立尚資&ヤマザキマリ「『現代のルネサンス』へのヒント」
仲野徹&宮沢孝幸「新興ウイルスは何度も現れる」
安宅和人「百年後の世界とヒューマン・サバイバル」
森田真生「『弱さの自覚』が開く生態学的紐帯」
村上陽一郎「科学理解と「寛容」の精神を取り戻せ」
岩井克人「変質する資本主義、変貌する会社」
中西寛「文明の『二重転換』と日本の役割」
村山斉「『役に立たない学問」』国を救う」
谷口功一「『夜の街』の憲法論」
兼原信克「日本は世界経済の強靭化に貢献を」
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 すべての意見に賛同したわけではありませんが、各界の第一人者の意見を読むことができて、とても考えさせられ、参考になりました。そのごくごく一部を紹介すると、次のような感じ。
「医療崩壊危機が叫ばれていますが、病院が対応しきれなくなったとき、たとえば予備役のような組織を派遣できるシステムや教育を、平時から構築していくことが大切です。これは企業のサプライチェーン・マネジメントも同じことで、パンデミックにかぎらず災害への備えにも直結する話です。」(小林喜光さん)
「私が抱いている問題意識は、ヒトや動物に感染する病原性ウイルスに比べて、動物由来の非病原性ウイルスの研究が、あまり進んでいないことです。しかし、そもそも今回のCOVID-19の原因ウイルスとなったSARS-CoV-2やSARSコロナウイルス、MERSコロナウイルスは、コウモリを媒介していますよね。しかもコウモリでは病気を起こさない。ならば、普通に考えるならば、平時より動物の非病原性ウイルスを研究していなければ、動物由来の感染症が流行した際の対処はどうしても難しくなるでしょう。」(宮沢孝幸さん)
「(前略)私は、現段階では「ベスト」ではなく「ベター」な政策を考える態度が必要だと考えている。これはリーダーのみならずフォロワーにも求められる姿勢だ。ベストなど存在しないという認識に立てば、皆で絶えずベターな選択肢を考えることができるし、リーダーが方針転換しても責められない。フォロワーの意見が容れられることだってあるだろう。そうして、社会全体として(存在しない英語だが)、「more better」をめざす。」(村上陽一郎さん)
「量子、脳科学、遺伝子工学などの最先端技術に関しては、基礎研究、応用研究の段階であろうと、また民生技術であろうと、安全保障に関係しうる研究であり技術開発である。経済安全保障上に重要技術と指定して、国家が主導すべきである。高いリスクを負うことを覚悟のうえで巨費を投じ、研究開発を進めるべきなのだ。」(兼原信克さん)
 ……などなど。とても参考になる意見をたくさん読むことが出来ました。本書の中で、多くの人が主張しているように、今後の日本を発展させるため、やはり教育や科学技術をもっと重視すべき(予算増額)ではないかと思います。
 今後の社会変化の行方を予想したいと考えている方は、ぜひ読んでみてください。複雑で困難な局面を乗り越えるために、何をすればいいのか考えるためのヒントを得られるかもしれません。
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
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