『ホモ・デウス 上: テクノロジーとサピエンスの未来』2018/9/6
ユヴァル・ノア・ハラリ (著), 柴田裕之 (翻訳)

『ホモ・デウス 下: テクノロジーとサピエンスの未来』2018/9/6
ユヴァル・ノア・ハラリ (著), 柴田裕之 (翻訳)

 我々は不死と幸福、神性を目指し、ホモ・デウス(神のヒト)へと自らをアップグレードする。そのとき、格差は想像を絶するものとなる……世界1200万部突破の『サピエンス全史』著者が戦慄の未来を予言している本です。
「ホモ・デウス」とは「不死と至福の神のような力を獲得した存在」で、我々は次の理由から、必然的にそれを目指すことになるそうです(「訳者あとがき」の要約からの引用)。
「第一の理由は、従来の課題を達成したことだ。古来、サピエンスは飢饉と疫病と戦争に悩まされてきたが、これらの問題は三つとも二一世紀初頭までにほぼ克服された。第二に、歴史は空白を許さず、サピエンスを待ち受けているのは「充足ではなくさらなる渇望」であり、「成功は野心を生」み、そこに「科学界の主流の動態」と「資本主義の必然性」が加わると、新しい課題の追及が始まる。そして第三の理由が、過去三○○年にわたって世界を支配してきた人間至上主義だった。「人間至上主義は、ホモ・サピエンスの生命と幸福と力を神聖視する。不死と至福と神性を獲得しようとする試みは、人間至上主義の積年の理想を突き詰めていった場合の、論理上必然の結論にすぎない」のだ。」
 ……なるほど。もともと宗教は「豊作」祈願と深くかかわっていますが、人類(科学者)はすでに肥料や農地改良などで、神以上の成果をあげているそうです。……うーん確かに……。
 そして現在、我々はまさに疫病の「コロナ禍」に見舞われてはいますが、これも従来までの疫病との戦い方とは違っています。死者も多く社会生活にも大変な影響があって辛いのは確かですが、隔離や消毒という行動で対処するだけでなく、今までとは比べ物にならないスピードでワクチンを開発するという科学の力も駆使しているのです……正直に言って、こんなにも速く有効なワクチンが開発されるとは予想もしていませんでした。科学って凄いですね……。
 こんなふうに、さまざまな場面で役に立つテクノロジー開発をどんどん進めている人類には、今後も明るい未来が約束されているようにも思えますが、ハラリさんはそう考えてはいないようです(「訳者あとがき」の要約からの引用)。
「さて、神性の獲得を目指すと、なぜサピエンスは終焉を迎えるのか? AIが進歩し、ほとんどの分野で人間に取って代わり、人間について、本人よりもよく知るようになれば、大多数の人は存在価値を失い、巨大な無用者階級を成し、人間に人生と経験は神聖であるという人間至上主義の信念が崩れる。」
「今のところ、人間至上主義に取って代わるものとして最も有力なのは、人間ではなくデータをあらゆる意味と権威の源泉とするデータ至上主義だ、と著者は言う。データ至上主義の観点に立つと、人間全体を単一のデータ処理システムと見なし、歴史全体を、このシステムの効率を高める過程と捉えることができる。この効率化の極致が「すべてのモノのインターネット」だ。だが、大量で急速なデータフローには、人間をアップグレードしても対処できない。「人間はその構築物からチップへ、さらにはデータへと落ちぶれ、ついには急流に呑まれた土塊のように、データの奔流に溶けて消えかねない」」
 人類よりも信頼出来て有能なAI+ロボットが大半の仕事をするようになった時、経済的重要性を失った一般大衆の人権と自由は守られるのだろうか、とハラリさんは疑問を提示します。
 また人類よりも賢いAIは、人類が動物にしてきたのと同じ扱いを、人類に対して行うのではないだろうかという懸念もあります。
 このままでいくと……将来は「アルゴリズム」が支配する社会となり、一部の人間だけが自らをアップグレードして特権エリート階級になるのかもしれないと言うのです。
 本書の終わりで、ハラリさんは次の3つの疑問を提示します。
1)生き物は本当にアルゴリズムにすぎないのか? そして、生命は本当にデータ処理にすぎないのか?
2)知能と意識のどちらのほうが価値があるのか?
3)意識はもたないものの高度な知能を備えたアルゴリズムが、私たちが自分自身を知るよりもよく私たちのことを知るようになったとき、社会や政治や日常生活はどうなるのか?
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 この本でハラリさんは、テクノロジーが優勢となっていく未来への懸念を顕わにしていますが、どんな未来になっていくのかは、私たち自身の選択にかかっているとも考えているようです。
「(前略)新たな形で考えて行動するのは容易ではない。なぜなら私たちの思考や行動はたいてい、今日のイデオロギーや社会制度の制約を受けているからだ。本書では、その制約を緩め、私たちが行動を変え、人類の未来についてはるかに想像力に富んだ考え方ができるようになるために、今日私たちが受けている条件付けの源泉をたどってきた。単一の明確な筋書きを予測して私たちの視野を狭めるのではなく、地平を拡げ、ずっと幅広い選択肢に気づいてもらうことが本書の目的だ。」
 より良い未来を創っていくために、何をすべきなのか、私たち自身が真剣に考えて行動していくべきなのでしょう。
 とても考えさせられる本でした。ここで紹介したのはごく一部ですが、膨大な知識が盛り込まれていて、ベストセラーとなった『サピエンス全史』同様、参考になる情報や未来へのヒントを随所で見つけることが出来ます。ぜひ読んでみてください。
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
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