『良いトレーニング、無駄なトレーニング 科学が教える新常識』2012/2/11
アレックス・ハッチンソン (著), 児島修 (翻訳)

 元カナダ代表の中長距離ランナーで、物理学の博士号をもつ科学ジャーナリストのハッチンソンさんが、世界各地の研究者による400以上の論文と、100以上のインタビューから得た「たしかな証拠」にもとづいて、トレーニングに関するさまざまな疑問に答えてくれます。
 例えばQ:健康のためにはどの程度の運動をすればいいのか? という疑問には、いろいろな意見があるが……という詳しい解説の後に、「ポイント」として次のような簡潔なまとめがあります。
「週に五回、30分の運動(10分程度でも)であらゆる死因リスク減らすことができる。運動の量を増やせば効果はさらに高まる。」
 ……という感じに、「疑問」「回答(解説+簡潔なまとめ)」という組み合わせになっています。まだ定説がないという状態のものもありますが、全体としてはとても合理的で納得のいく回答が多かったと感じました。(なお、この本は2012年発行と少し古いので、第2章のフィットネスギアに関する章では、ランニングのためのシューズに厚底シューズがない(この当時は「裸足」が注目されていたようです)など、情報が少し古い感じではありました。第2章のフィットネスギアは、参考程度にとどめておいた方がよさそうです。)
 さて、この本で一番気になる「無駄なトレーニング」は、どうやら「静的」ストレッチのようです。「静的」ストレッチを行うと、その後一時間以上パワー、スピードが低下することが書いてあった他、次のような記述もありました。
「ストレッチで身体の可動域は広がるが、ケガの発生率を低下させる効果は科学的には確認されていない。柔軟性を高める効果は、運動前ではなく運動後のストレッチのほうが高い。」
 ……運動の前にはケガを防ぐためにストレッチをしなければいけないと言われて、膝裏伸ばしなんかをやらされたような気がしますが、最近は運動前には「動的」ストレッチをやることが推奨されています。「静的」ストレッチは、運動後に「柔軟性を高める」ためにやるといいようですね。
 そしてこの本で最も参考になったのは、「運動は心身を健康にする」ということ。運動は「脳」にもいいのです。次のような記述がありました。
「確実に言えるのは、運動によって脳に血液と成長因子(体内で細胞の増殖や分化を促進する内因性タンパク質の総称)が多く送り込まれることで、記憶力や学習能力、認知力が高まり、老化防止などにも劇的な効果が見られるということです。」
「運動をすると脳の働きがよくなり、記憶力も向上する。有酸素運動のほうが筋力トレーニングよりも効果が大きい。」
 有酸素運動は「老化防止」にもすごく役立つのだとか。
「三〇代半ばを過ぎると、筋肉量は毎年二~三パーセント、有酸素能力は一〇年ごとに約九パーセント減少していく。しかし日常的に運動することでこの進行は遅らせられる。」
 有酸素運動には、心臓強化、小動脈増加、ミトコンドリアの成長促進、心臓病・糖尿病・関節炎などのリスク軽減、寿命延長、体重とストレス減少、鬱の発生率低下、認知機能改善などたくさんのメリットがあるそうです。
 なお、運動のための時間をとれないほど多忙な方には、「高負荷インターバルトレーニング(HIT)」という方法があります。強度の高い運動が必要ですが、長時間の運動と同等の効果を得られるのだとか。
 この他にも、いろいろ参考になる情報が満載でした。そのごく一部を紹介すると以下のような感じ。
「一日に二分間の階段上りを五回行うだけで、ジムに通わなくても、大きなフィットネス効果が得られる」
「「ランニングは膝を痛める」という従来の常識とは異なり、非ランナーに比べるとランナーのほうが関節炎発症率が低いことがわかっている。」
「マスターズで好成績を収めている選手は、短い休憩を挟みながら連続してトレーニングをしている。強化ポイントを絞り、回復時間を十分にとることでケガを回避することも重要。」
「太っていてもフィットネスが良好な人は、デスクワーク中心の痩せている人より死亡する確率が低い。」
「ジムで運動していても、仕事で一日じゅう机に座っていると健康に悪影響が出る。定期的に休憩をとり、デスクから離れて歩きまわったりストレッチをしたりすることを心がけよう。」
「運動を終えたら、できるだけ早く(遅くとも二時間以内)に食べ物を摂取するとよい。炭水化物とタンパク質の比率は四対一が目安。」
「もっとも有効なトレーニング方法は「計画的訓練」である。漫然とトレーニングを繰り返すのではなく、目標を定めて進捗状況を確認することが大切。」
 ……「運動」は心身を健康にして、老化を防止してくれる……これからも毎日、運動をするようにしなくちゃ! みなさんも、ぜひ読んでみてください。
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
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