『新版 絵でわかる日本列島の誕生 (KS絵でわかるシリーズ)』2021/5/13
堤 之恭 (著)

 各地の地質・岩石や、岩石を構成する鉱物をくわしく分析することで、しだいに日本列島の生い立ちが分かってきたことを教えてくれる本です。
『新版 絵でわかる日本列島の誕生』というタイトルと表紙の絵から、素人にも分かりやすい日本列島の成り立ちをテーマにした地学の本なのだろうと勘違いしてしまいましたが……内容は、大学レベルの地学の本でした。カラーのイラストが豊富で、分かりやすく書いてくれているのだとは思いますが、かなり専門用語が多めで読むのは少し大変でした……でも、それだけに、とても充実した内容の地学の本だと思います。
 日本列島の成り立ちに関してはさまざまな説があり、かつて主流だった説が現在では否定・変更されているものも多いようです。この本は、7年前に出版された『絵でわかる日本列島の誕生』の改訂版で、特に第2、3章と7章以降は内容がかなり変わっているそうです。
「日本列島は南中国地塊の端にあった」とか、「フィリピン海プレートの方向転換が現在の日本列島の形成に大きな影響を与えた」など、各地の地質・岩石や、岩石を構成する鉱物をくわしく分析することで明らかになってきた日本列島の生い立ちを、いろいろ知ることが出来ました。その一部を紹介すると次のような感じです。
「南中国地塊の端で一進一退しながらも付加体が形成されていましたが、それとは別次元のところで大事件が起こってしまいます。大陸漂移の結果、南中国地塊と来た中国地塊とが衝突したのです。南中国地塊が来た中国地塊の下にもぐり込むように衝突した結果、それまで成長してきた付加体は、大部分がバラバラになってしまいました。現在の日本列島に、このペルム紀後期ごろの衝突以前に形成された地質帯が少なく、しかも断片的にしか存在しないのは、このためだと思われます。」
「(前略)3Maに起こったフィリピン海プレートの北寄りから西寄りへの運動方向の転換は、現在の日本列島にも大きな影響を与え続けています。大げさではなく、現在の日本列島の地形には、この方向転換の影響が色濃く出ていることがわかってきているのです。
 南海トラフでの斜め沈み込みは新中央構造線をつくり、その運動は瀬戸内海をはじめとする西南日本の地形をつくりました。そして、太平洋プレートの収束境界(日本海溝)の前進による東西圧縮は東北日本を陸化し、日本アルプスをつくりました。ようするに、現在の日本列島の姿は、このフィリピン海プレートの方向転換によって仕上げられたのです。」(注:Ma=数値年代)
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「日本列島の原型は、南中国地塊の縁で形成された付加体」だそうです。日本列島が「中国大陸の端から分離して出来た」ことは知っていたのですが、その頃、中国大陸自体も激動中だったことは知りませんでした。「大陸は「小さな大陸」の寄せ集め」で、中国大陸は南北に分かれていた小大陸が衝突してできたそうです。そして広大なユーラシア大陸も、シベリア、中国(南北)、東南アジア、インド、タリムなどの小大陸の寄せ集めなのだとか……うわー、そうだったんだ……。
 そのごく一部の南中国の端から、西日本、東日本の二つが、観音開き状に離れ出てきたのですが、東日本のほとんどが海底にあった時代もあったようです。ところがフィリピン海プレートが向きを変えたことで、東日本が隆起して現在の状態になったのだとか(他の説もあるようですが……)。
 このような日本列島の成り立ちは、地質や鉱物を調べることで推定されているようで、この本の前半には、放射年代の測り方などの分析方法などが詳しく説明されていました。
 そしてこの本で一番驚いたのは、「第8章 日本列島の変動とフィリピン海プレート」の次の記述。
「(前略)紀伊半島東部には、拡大軸近傍の「できたてアツアツ」の四国海盆が沈み込むことにより、「熊野カルデラ」、「熊野北カルデラ」、「大峰・大台カルデラ」の形成を伴う大規模な火成活動が起こりました。これらのカルデラをつくった噴火は当時の地球全体の気温を10℃ほど下げ、大量絶滅の引き金となったとも言われています。」
 ……えええ! 地球全体の気温を下げて大量絶滅の引き金に……こんなちっぽけな日本列島の一部が、そんなことを引き起こしていたなんて!
 日本列島の成り立ちを詳しく語ってくれる本でした。従来の日本列島の成り立ちの説明とは違っている部分があるようで、研究が進むにつれて、成り立ちの推定は変わってきているようです(おそらく今後も変わっていくのでしょう)が、このような推測が、どのように行われてきたかも知ることが出来て、とても勉強になりました。地学に興味のある方は、ぜひ読んでみてください。
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