『オケ奏者なら知っておきたいクラシックの常識』2014/5/2
長岡 英 (著)

 交響曲やオーケストラの成り立ち、作曲家や楽器のトリビアなど、西洋音楽史のトピックをわかりやすく解説してくれる本です。
「オケ奏者とオケ・ファンに贈る知って楽しい「クラシックの常識」案内」という謳い文句だったので、「クラシック入門」的な本だと勝手に勘違いしたのですが……全然違いました(笑)。タイトル冒頭に「オケ奏者なら」とあるように、クラシックの常識程度のことはほぼすべて知っている人に向けた「西洋音楽史を中心にしたクラシック豆知識を紹介」した本だったのです。
 だからこの本には、「現在のオーケストラの配置」とか「楽器紹介」「常識的な音楽記号」などのごく一般的な「クラシック入門書」に書かれているような内容はほとんどありません。でも、だからこそ、「オケ奏者とオケ・ファン」にとっては、むしろ興味深い記事ばかりが満載された本になっていると思います。
 例えば、「「交響曲」は開幕ベル」だったという話。なんと、初期の「交響曲(シンフォニーア)」は序曲のようなものだったそうです。演奏会の開幕ベル代わりに使われていて、ほぼ使い捨て。全体で10分程度の長さだったのだとか! オケ奏者ではなく、ただの初心者クラシック・ファンの私としては、驚きの事実でした。
 また、モーツアルトの劇音楽でのクラリネットの使い方は驚くほど限定的で、愛の場面でのみ使われたとか、トロンボーンは神聖な楽器として宗教的・超自然的力が現れる場面で使われることが多かったとか、楽器別の使われ方の違いにも興味津々でした。
 そしてすごく面白かったのが、「やかましかった! 指揮者のお仕事」。19世紀前半ごろまでは、「音が出る指揮(というか指示)」が多かったそうです。具体的には「手を叩く」「台を叩く」「足を打ち鳴らす」「叫ぶ」など。しかも「演奏会の間中、ほとんどずっと」鳴っていたそうで、「たとえばパリのオペラ座の「足を踏み鳴らす。あるいは杖や弓で音が出るように叩く」指揮は、1803年に「しばしば、間違いと同じくらい邪魔になる」と評されています。メンデルスゾーンは1831年にナポリの歌劇場で、オペラの間中ずっとファースト・ヴァイオリン奏者がブリキのろうそく立てを四分音符の速さで打っているのを聞いて、「(オブリガート・カスタネットのようだけどそれよりやかましく)歌よりもはっきり聞こえる。それなのに、歌声は決して揃わない」と書き残しています。」だったとか(笑)。演奏会の最中にずっと「メトロノーム」が鳴っている様子を想像してしまいました。こんな音による指揮(指示)では、「歌声は決して揃わない」になっても仕方ないですよね。だって、演奏会の最中、奏者や歌い手のすぐ近くでは、他の音もたくさん鳴っているわけですから。19世紀後半以降に、指揮棒による指揮へと改良されて本当に良かったと思います。
 この他にも、カラー写真で「モーツアルトの作品目録」や、「最初のヴァイオリンの構え方を見ることができる絵画」、「四線譜に四角いネウマで書かれたグレゴリオ聖歌」などの興味深い資料も見ることが出来て、すごく楽しめる本でした。「オケ奏者とオケ・ファン」の方には、特にお勧めです☆
<Amazon商品リンク>