『未来を実装する――テクノロジーで社会を変革する4つの原則』2021/1/24
馬田隆明 (著)

 今の日本に必要なのは、「テクノロジー」のイノベーションよりも、「社会の変え方」のイノベーションだ……世に広がるテクノロジーとそうでないものは何が違うのか。数々の事例と、ソーシャルセクターの実践から見出した「社会実装」を成功させる方法を教えてくれる本です。
 ちなみに「社会実装」とは、「新しい技術を社会に普及させること」で、「テクノロジーの社会実装とは、テクノロジーの力によって社会を変えようとする営みであると同時に、社会の仕組みを変えることによってテクノロジーが活用される社会を作り出す営みです。」なのだとか。
 その例として「電気」が社会実装された経緯が書いてありましたが、なるほど……今では当たり前のもの、というか「無くてはならないもの」の「電気」は、それを作るための装置だけでなく、送るための電線や電柱、法規制、使用料の取り方、各家庭にコンセントを付けて電気機器を買ってもらう、電気機器の使い方・電気料金の支払い方を知ってもらう……これらの途方もない手間をかけて「社会実装」されてきたんですよね……。この本には、次のように書いてありました。
「テクノロジーの進歩や最適化に加えて、テクノロジーの周辺にある法や教育といった社会制度が整い、そして人々が技術に対する教育を受け慣習を替え、テクノロジーを安全に扱えるようになることで、電気という新しいテクノロジーは社会実装されたのです。」
 ……確かに……。
 この本は、このような「社会の変え方」を教えてくれています。
 まず事例として、Uber、Airbnb、マネーフォワード、自治体(加古川市の見守りカメラ)国(コンタクトトレーシングアプリ)が紹介され、これらの事例からの学びとして、次のような成功のための「四つの原則と一つの前提」が示されます。
原則1)最終的なインパクトと、そこに至る道筋を示している
原則2)想定されるリスクに対処している
原則3)規則などのガバナンスを適切に変えている
原則4)関係者のセンスメイキングを行っている
前提)社会実装しようとしているテクノロジーに対するデマンドがある
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 そしてその次の章からは、これらの原則についての解説が始まります。
「インパクト」は「理想と道筋を示す」こと。
「リスク」は「不確実性を飼いならす」こと。
「ガバナンス」は「秩序を作る」こと。
「センスメイキング」は「納得感を作る」こと。
 これらの中で、個人的に最も参考になったのは「リスク」でした。
 新しいテクノロジーを「社会実装」しようとする際には、多くのリスクがあります。この本にも次のように書いてありました。
「テクノロジーの発展が引き起こすリスクは、そのテクノロジーの社会実装をしようとする人々の想定を超えて生まれてきます。」
 それが怖いんですよね……。
 でも「実装しないことによるリスクもある」のです。
「グローバルゼーションが否応なく進む中、日本の法規制だけがリスクを忌避して安全策を取っていると、他国のグローバル企業が、すでにある資金力や他国での経験、ユーザーベースをもとに、日本市場で覇権を取ることも十分にありえます。そうなってしまえば、日本の事業者が稼げなくなり、税収も落ちてしまい、日本全体として経済的・政治的・軍事的に好ましくない状況となってしまいます。かといって、経済を優先して人権などを侵害してしまう社会は誰も望んではいません。そうした絶妙なバランスを取りながら、社会実装のリスクを判断していく必要があるのが、今の社会だと言えます。」
 うーん、確かに……。
 でも「リスク」には、本当に困難な問題がたくさんあります。例えば、現在世界中で進行中の「自動運転」。これなんか、リスクを考えたら、怖くて開発を進めていけなくなりそう……。そう思っていたら、「第6章 ガバナンス」には、「社会にリスクを分散させる」ということが書いてありました。自動運転のように「明らかに有用なのに高いリスクがある」ものは、「社会全体である程度そのリスクを負担するほうが、誰にとっても有益になる」のです。
「ガバナンスを変えることによって、リスクを分散させることで、事業者が新しいリスクを取り、新しいサービスが生まれる環境を作り出す。その設計には、十分な注意と監視が必要ですが、ガバナンスの有効な使い方の一つと言えるでしょう。」だそうです。
 さらに巻末には、実践のためのツールとして、「変化経路図」、「アウトカムの測定と評価」、「課題分析と因果ループ図」、「アクティビティシステムマップ」、「リスクと倫理への対応方法」、「パワーマップとキーパーソン」、「規制の変更」、「ソフトローと共同規制」、「業界団体」、「アドボカシー活動とパブリックアフェアーズ」の10種類も紹介されています。
 新しい技術の「社会実装」を成功させる方法を教えてくれる本でした。とても参考になるので、デジタル時代の新規事業を担当している方は、ぜひ読んでみてください。
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
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