『コンセプト別 世界観のつくりかた: キャラクターを見せるための背景テクニック』2020/12/10
刈谷 仁美 (著), しらこ (著), yomochi (著),
イラスト全体の雰囲気を伝える「世界観」をテーマとしたイラストメイキング集。5人の作家が、情感あふれるイラストに込めたテクニックを解説してくれます。
絵具で描いたようにしか見えない作品も多いのですが、実はどの作品にもデジタルツールが活用されています。
刈谷仁美さんの作品のテーマは、女子の部屋。表紙写真の真ん中のイラストです。物が雑然と置かれた様子から、絵の中のキャラクターの生活感やストーリーなども感じ取れます。
「部屋を描くに当たっては、生活感を感じさせることがコツかと思います。今回に至っては、1人暮らしを始めたて(?)の家に遊びに来た姉をモチーフにしています。なので、ひと部屋にあらゆる要素を詰め込んでいます。室内を描くポイントとしては、そこに暮らす人の性別、性格、趣味や趣向を想像すると家具のデザイン、置いている小物の種類が想像し易いかと思います。」というアドバイスがありました。
続いては、「郊外で遊ぶ親子の穏やかなイラスト」がテーマのしらこさんの作品(表紙左上)。ご自分で撮った写真を参考に、モチーフの大きさや形を変えて再配置し、奥行きが感じられるような絵にアレンジしているそうです。写真をもとにラフを作っているのですが、水彩画にしか見えません。でもこれ、Procreateというデジタルツールを使っているそうです。
「風景がメインの絵はモチーフが細かくなる場合もあり、描くのが大変です。そこでとっかかりのハードルをなるべく下げるために、ラフは色と配置という最小限の構成で考えます。」という考え方が、すごく参考になりました。写真をベースにすると、どうしても細かく描きこんでしまいそうになりますが、最初はあえてボヤッと描いておく方が、想像力を働かせやすくなると思います。しらこさんは、この後、写真のモチーフの大きさや位置・形を変えたり、モチーフを省く・追加するなどを行って、新しい画面を作っていっています。
続いて、「現代的なオフィス街とビジネスマン」がテーマのyomochiさんの作品(表紙右上)。無機質で線の細かいビル群を、デジタルと透明水彩のアナログ画材を組み合わせて描いています。この描き方もすごく参考になりました。
「主に線画、仕上げはデジタル処理とし、着彩の工程は透明水彩などのアナログ画材を用いて制作しています。」という方法。まずビル街を線画で描き、印刷します。その紙に水彩絵の具で色を塗っていき、着彩した紙をスキャンして取り込んだ上で、その上に線画レイヤーを被せて水彩ブラシで加筆修正、他のモチーフを加えたり、効果エフェクトを入れたりして最終的に完成させていくのです。
デジタルとアナログの上手な使い分け方だと感心させられました。アナログの着彩(水彩)部分はデジタルでもやれるとは思いますが……絵具に慣れている人にとっては、この工程を絵具でやった方が思い通りに塗れるし、なにより、やっていて楽しいと思います☆ いいな、この方法……。
続いて台湾の歴史的な建築物を描いているのが高妍さん(表紙左下)。アナログ風の優しい筆致で、穏やかさが感じられるような雰囲気や空気感が醸し出されています。オリエンタルな色使いに個性があって素敵です。
そして最後が、水面に反射した虚像の幻想的な世界を描いているbanishmentさんの作品(表紙右下)。欄干から河川敷の道路を見下ろす構図と、道路に溜まった水たまりに空が反射している幻想的な作品です。風景がもの凄く細かく描きこまれていて、どれが現実で、どれが幻想なのかが曖昧になっているほどです。垂直方向に反転させた映像を歪めて水たまりに入れるという手法など、デジタルならではの技法が駆使されています。
この作品も凄いのですが、ギャラリー展示されているbanishmentさんの他の作品(夕日で影になっている木立が映り込んでいる水溜まりなど)もとても見ごたえがあって……打ちのめされる感じがするほど素晴らしいのです……。
プロの現場で活躍するイラストレーターが実際に使っているテクニックを、解説つきで詳しく見ることが出来る本でした。技法も世界観もかなり違っている作品ばかりなので、とても参考になると思います。イラスト好きの方は、ぜひ眺めてみてください☆
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なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
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