『寿命遺伝子 なぜ老いるのか 何が長寿を導くのか (ブルーバックス)』2021/3/18
森 望 (著)
寿命遺伝子たちによって明かされる「長寿のメカニズム」と、そこから見えてくる「老化」と「寿命」の本質を紹介してくれる本です。
1988年、米国・カリフォルニア大学のとある研究室で、体長1ミリの「線虫」の寿命が、たった一つの遺伝子の変異によって大幅に延びることが見つかりました。これが世界初の寿命遺伝子「エイジ1」発見の瞬間だったのです……こうして人類の究極の夢「不老長寿」をめざして、世界の研究機関で「遺伝子ハンター」たちによる熾烈な遺伝子獲得競争が始まりました。
「現在、寿命遺伝子はおよそ30種類近く知られている。ここでは、そのうち代表的な12個の寿命遺伝子が生命を制御するさまを、遺伝、脳、神経、時間、情報、分子修飾、代謝、そして進化などの観点からみていく。」
……ということで、「老化」に関わる遺伝子としては、次のようなものが見つかっているそうです。
「エイジ1、ダフ2、ダフ16などの遺伝子は、その経路の機能性を抑えてやると長寿化する遺伝子(つまり老化遺伝子)。シックやメトセラも老化遺伝子。」
「サー2やサーチュインは、変異によって活性が落ちると「老化」の方向へ進む遺伝子(長寿遺伝子)」
また遺伝子発現制御の重要な転写因子のレストは、老化脳でニューロンをストレスから守るだけでなく、学習や記憶などの高次脳機能の維持にも重要な役割を果たしているようです。
遺伝子は老化にも関係があるんですね。もっとも人間の寿命に影響する度合いは、「遺伝3割、環境7割」のようですが……。
この本では、これら老化遺伝子の詳しい仕組みとともに、研究の経緯なども紹介してくれます。なかでも、とても印象に残ったのが、がんを引き起こす遺伝子シックの研究の話。シックp66のないマウスは「長命」の傾向を示していたのですが、その研究の10年後に、「シックp66のないマウスは、研究室での飼育下ではたしかに「長命」なのだが、どうも自然界では「短命」であることがわかってきた。」そうです。
「一般には、研究者はほとんど実験室でマウスを調べるだけで、自分のマウスを野生下におくことはない。しかし、ペリッチたちはあえて、それをした。おそらく、これまでの実験結果を多少疑いたくなるような状況がでてきたからなのだろう。」
その結果、野生のマウスは(当然ながら)野生でも強かったのですが、実験室では長命だったシックp66のないマウスは、野生では短命になってしまったのだとか! ……あー、なんか分かるような気がする……。そして、こういう実験って、すごく大切ですよね! 「自然の環境のなかで健康長寿」こそが望ましいのですから。長寿を研究している研究者の方は、ぜひこのような実験もして欲しいと願っています。
さて、この本では「長寿遺伝子」や長寿の情報をたくさん読むことができましたが、私たちにとって参考になりそうな情報のごく一部を、以下に要約して紹介します。
・成長も代謝も「スロー」がよい(長寿化する)。
・生物の代謝速度と寿命の間には反比例の関係がある(代謝速度が速い小型動物は寿命が短く、大型動物はその逆)
・生物にとって寿命と関係がある要素は、おおざっぱにいって「身体の大きさ」「成熟までの時間」「脳の大きさ」。大きい(長い)ほど長寿命になる。ただし同種の中で比較すると、小さくてスリムなほうが長生き。
・アンチエイジングは抗酸化が王道
・運動は健康長寿にいいことは誰もが知っているが、その科学的根拠がこのアンプキナーゼ(タンパク質リン酸化酵素)の活性化にある。
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……とりあえず、のんびり生きて、食べ過ぎず、運動をしましょうということでしょうか(笑)。
「長寿」にまつわる生物学的な情報をたくさん学ぶことが出来る本でした。興味のある方はぜひ読んでみてください。
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なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
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