『耳石が語る魚の生い立ち: 雄弁な小骨の生態学』2021/2/3
片山知史 (著)

 魚類の耳石を調べると年齢や誕生日が分かる他、どのような場所で生活していたのかの環境履歴まで推定できることから、水産分野では資源や漁業の研究に幅広く用いられている……そんな耳石のことを教えてくれる本です。
 ……ふーん、ところで「耳石」って何?
「耳石は、脊椎動物の内耳に存在する硬組織である。魚類は外耳、中耳がないものの、耳石は脳函の腹側(若干後方)に収まっている三半規管の底部に位置する。機能的には他の脊椎動物と同様に、聴覚と平衡感覚に関与している三半規管の一部である。」
「(前略)(魚類の)耳石は、成長に伴ってサイズを増大させるが、過去に形成された組織が残る。」
「その保存性の高さから、水産学分野以外の調査研究分野でも多く用いられている。耳石は太古の様子を記録しているタイムカプセルともいわれ、考古学や古環境研究でも重要なツールとなっている。」
「(前略)遺跡出土の耳石の大きさからその個体の体長および年齢を推定し、各年齢群の生態に基づいて漁期等、生活ぶりも推定できる。また耳石には、生息環境の水温や塩分等の水質が反映される微量元素がそのまま保存されているため、それらを測定することで、4000~5000年前の古代文明期の環境を再現させる研究も取り組まれている。」
 小さな耳石からは、いろんなことが分かるんですね!
 この本では、耳石の形や大きさ、形成機構や機能、耳石輪紋(年輪、日周輪)の構造の見方、多様な形状の整理といった基本的な耳石に関する知見をたくさん紹介してもらえます。
 耳石には年輪だけでなく、日周輪まであるそうです。もっとも日周輪の方は孵化後半年までぐらいしか形成されないようで、その後は成長が鈍化して日周輪は形成されなくなるようですが……。
 この年輪などは、棲息環境や餌の摂取状況でも変わるようです。毎日餌が得られる環境では成長がスムーズでも、稀にしか捕食できない環境では、偽年輪が形成されやすいのだとか。
 また染料を用いて耳石に標識を付けることも出来るようで、耳石は、いろいろな研究のために役立ちそうです。水温を下げてストレスを与え、耳石に太い暗帯を作らせることで標識にすることも出来るのだとか。
「耳石」について深く知ることが出来る本でした。巻末には詳細な用語解説や引用文献もあります。興味のある方は読んでみてください。
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
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