『脳研究最前線 世界では今、脳研究はここまで進んでいる』2020/11/30
ジョナサン・D・モレノ (著), ジェイ・シュルキン (著), & 1 その他

 脳研究によって何が明らかにされていて、何がわかっていないかを、歴史的な経緯を踏まえながら語ってくれる本で、内容は以下の通りです。
第1章 電気と脳
第2章 脳をつくる
第3章 進化する脳
第4章 脳の画像化
第5章 脳の工学
第6章 セキュリティーと脳
第7章 脳を治療する
第8章 社会化する脳
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『脳研究最前線』というタイトルだったので、理科系の学術的な本だと思ったのですが、ページを開いたときに違和感がありました。なぜなら文章がずらずら並んでいるだけで、イラストや表がほとんどなく、章内に番号付き項目名すらなかったからです。
 読んでみたら、脳研究に関するエッセイ集という感じで……内容があまり整理されていないような印象を受けました(汗)。でも、仕方ないのかもしれません。脳に関しては、実は、まだまだ「わからないことだらけ」だからです。
 それでも、この本を紹介させていただいたのは、知らなかった「脳研究最前線」がいろいろ書かれていたからです。特に驚いたのが、「第6章 セキュリティーと脳」。「脳と脳をネットワークでつなぐ」なんていう試みがあるそうです。少し長いですが、その一部を以下に紹介させていただきます。
「(前略)さらに注目に値するのは、人間の脳と脳を瞬時に交信させることを可能にするだけでなく、脳どうしのネットワークを使って、その処理能力で特定の問題を解決するシステムでしょう。たとえば、金融危機が起こり、世界市場が脅威にさらされたと想像してください。一定の数の金融専門家が集められて一つの神経インターフェースのグループをつくり、協力して解決法を探ります。会話の邪魔も性格の違いも頭のいい人ならではのエゴもなしに、それぞれの専門家が独自の専門知識を適用するのです。似たようなシナリオが、国家安全保障の問題にも適用できるでしょう。軍事と外交の専門家による集合的で自由な経験と知性が、神経ネットワーク上で合流して、問題を解決し望ましい選択肢を選びだします。問題に関係のない個性の違いは、理論上取り除かれるはずです。戦場にいる兵士や石油掘削装置の作業員なども、ネットワーク化された脳によってお互いの知識やスキルを補い合い難しい状況に対処できる例でしょう。ある種の脳の集団といったかんじです。」
 この「人間の脳のネットワーク」はまだ夢物語に過ぎませんが、実はラットやサルでは、以下のように、すでに実験されているそうです。
「デューク大学とペンシルベニア大学の共同チームは、数匹のラットの脳をつないで「脳ネット」をつくる実験を行い、別の実験では数匹のサルで同様のことを行いました。これにより実験動物たちは、それぞれの脳の力を合わせて、一匹のときよりも効率的に問題を解決できたのです。」
 ……なんか、怖いような実験ですね。この本にも、「人間の脳と脳のどんなリンクが可能かを探る実験は、工学的な問題のほかに、必ず倫理的障害に直面することになります。」と書いてありましたが、こういう研究は本当に慎重にやって欲しいと思います。
 この他にも、「小型化された移植可能なデバイスにより、薬剤が血液脳関門のさまざまな構成要素を迂回する」とか、「機械と人間が一緒になり、それぞれの特別なスキルを合体させるケンタウルス・コンセプト」とか、驚きの研究を知ることが出来ました。
 どこまで実現可能なのか疑わしい感じの研究もありましたが、「脳研究最前線」を垣間見せてもらえる本でした。興味のある方は、読んでみてください。
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
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