『菌根の世界: 菌と植物のきってもきれない関係』2020/9/23
齋藤 雅典 (著)

 緑の地球を支えているのは菌根だった……日本を代表する菌根研究者7名が、多様な菌根の世界を総合的に解説してくれる本です。
 実はこの本を読むまで「菌根」という名前を知らなかったのですが(汗)、「菌根とは、菌類いわゆるカビの仲間が植物の根に共生している現象をさす言葉である。」だそうです。次のような解説がありました。
「(前略)根の中には、その名を「菌根菌」という菌類、つまりカビの仲間が棲んでいて、植物の根が養分を吸収するのを助けている。(中略)陸上の植物の八割以上の種に菌根菌が棲んでいて植物を助けている。森の木にも、草原の草花にも、畑の作物にも、その根には菌根菌が棲んでいて、生育を助けている。菌根菌は、妖精と同様に、姿や形はいろいろである。根の表面にからみつくように棲んでいるものもあり、根の組織の内部まで入り込んでいるものもある。森の中で、樹木の周囲に同心円状にきのこが発生していることがある。ヨーロッパではフェアリーリング(妖精の輪)とも呼ばれるが、これらのキノコは地下で木の根につながっていて木の養分吸収を助けている。一方で、この菌根菌は植物がないと生きていけない。植物と菌根菌はともにもちつもたれつの共生関係にある。」
 陸上植物のなんと8割以上が菌類と共生関係を築いていたんですね! 菌根菌が養水分を根に渡し、植物からは糖類を受けとっているそうです。
 菌根菌にはたくさんの種類があり、この本では、内生菌根・外生菌根・ラン菌根など、それぞれの菌根の特徴、観察手法、最新の研究成果、菌根菌の農林業、荒廃地の植生回復への利用をまじえて、日本を代表する菌根研究者7名が、多様な菌根の世界を総合的に解説してくれます。冒頭ではカラー写真(8ページ)で、菌根の姿を見ることも出来ます。
 植物と菌根の共生は、植物が陸上へ進出した当初(4~5億年前)から始まっていたそうです。
「ここで、植物と菌の出会いがある。植物は自分の体の近くで養分の吸収を助けてくれる微生物と助け合いを始めた。植物が光合成した有機物を菌類が利用し、菌類が菌糸によって吸収した養分を植物へ供給するようになったのだ。菌根共生の始まりである。はじめて陸地に進出したと考えられるアグラオフィトンという植物の化石の仮根に、現在のアーバスキュラー菌根の樹枝状体の形状に似たものが観察されている。」
 ……そうだったんだ……。私たちの体内にも太古に細胞内に取り込まれたと言われているミトコンドリアや、大量の細菌がいますが、植物も菌根菌などと共生していたんですね……。
 植物にとって大切な働きをしている菌根菌ですが、実はまだ分かっていないことも多いようです。この本では、研究の実際の方法や最新の研究成果なども知ることが出来ました。
 ところで植物を移植するときに、その周囲の土をつけたまま移植すると定着率が良いのは、土との化学組成的な相性のせいかと思っていましたが、次のオーストラリアへのマツの移植の事例を読んで、菌根菌との関係の方も重要なのだと気がつきました。
「(前略)オーストラリアにマツの種子を播種しても実生がなかなか伸びず、一方で英国から鉢植えのマツ苗を持っていくと苗はすくすくと伸びて樹木になることが経験的に知られていた。当時その理由は不明とされていたが、今日では外生菌根共生という観点で容易に説明できる。」
 ……なるほど……適切な菌根菌のいない環境では、生育しにくいのは当然ですよね。こうした菌根菌のパワーを積極的に生かそうと、最近では農業での活用も始まっているそうです。
 不思議な「菌根菌の世界」を総合的に紹介してくれる本でした。興味のある方は、ぜひ読んでみてください。
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
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