『「環境の科学」が一冊でまるごとわかる』2020/11/16
齋藤 勝裕 (著)
環境問題の基礎知識について、その歴史から、現代の地球温暖化やプラスチック汚染などの問題まで、総合的に解説してくれる入門書です。
「第1章 環境問題はいつから、どのように始まったのか」では、環境問題が、すでに古代文明の時代からあったことを知りました。少し長いですが、その一部を以下に紹介させていただきます。
「シュメール文明は、メソポタミア南部のチグリス・ユーフラテス河流域に栄えた文明で、世界最古の文明の1つとされます。
紀元前4300~3500年頃には治水のために灌漑農業が成立していました。しかし紀元前2800~2700年頃に気候の乾燥化が起こり、灌漑のための大規模な土木工事が必要となりました。そのために「国家」が生まれたと考えられています。(中略)
気候が乾燥化する中で灌漑農業を続けた結果、灌漑用水に含まれる塩類が次第に土壌に蓄積しました。それに耐えるため、作物を塩類に弱い小麦から大麦に変え、紀元前2400年頃には現在のアメリカやカナダの収穫量に匹敵する、1ヘクタール当たりの平均で約2トンの大麦の収穫があったとされます。
しかし、その後、塩類の集積が進み、また上流は都市化に伴う森林の伐採もあって土壌の浸食が進み、河川に流入した土が下流に堆積して、灌漑用水路の閉塞を起こしました。そのうえ、沈泥には塩類が含まれ、これがまた塩害を加速したのです。(中略)
塩害による(大麦の)生産の減退で都市の人々を支えることができなくなったことがシュメール文明の一因と考えられています。」
環境問題はこんな昔からあったんですね。古代文明が滅んでしまった原因には、気候変動や環境汚染の問題があったようです。
続いて、「第2章 地球温暖化の原因と進み方」、「第3章 地球の水をめぐる環境と問題」、「第4章 地球の大気の成り立ちと汚染」、「第5章 母なる大地の環境は-構造と資源と汚染」、「第6章 人口爆発、食糧危機にどう対応するのか」、「第7章 便利なプラスチックが環境を汚染する」、「第8章 化石燃料から再生エネルギーへ」、「第9章 身体の環境-健康をどう守るか」、「第10章 原子力は環境と折り合いをつけられるか」、「第11章 3R活動で循環型社会に変えられるか」、「第12章 SDGsをどう進めるか-後世にツケを回さないために」と、私たちの地球環境や環境問題の基礎知識を総合的に教えてもらえます。
例えば地球温暖化の問題では、その原因の一つとされる二酸化炭素を、リサイクルする動きがあるそうです。
「(前略)現在、カーボンリサイクルの技術を推進する動きがあります。これは二酸化炭素を炭素資源(カーボン)と捉えて回収し、多様な炭素化合物として再利用するというものです。大気中に放出される二酸化炭素の削減を図り、新たな資源の安定的な供給源の確保につなげることも目指しています。」
これは素晴らしい動きですね。
またプラスチックによる環境汚染問題では、レジ袋だけでなく、使い捨てマスクのことも考えなければいけないことが書いてありました。実は、使い捨てマスクの多くは合成繊維製、あるいは不織布製で、原料はプラスチックなのだとか!
ところで最近は、「SDGs(持続可能な開発目標)」という言葉をよく聞きますが、これには次の17の目標があるそうです。
1)貧困をなくす
2)飢餓をゼロに
3)人々に保健と福祉を
4)質の高い教育をみんなに
5)ジェンダー平等を実現しよう
6)安全な水とトイレを世界中に
7)エネルギーをみんなに、そしてクリーンに
8)働きがいも経済成長も
9)産業と技術革新の基盤をつくろう
10)人や国の不平等をなくそう
11)住み続けられるまちづくりを
12)つくる責任、使う責任
13)気候変動に具体的な対策を
14)海の豊かさを守ろう
15)陸の豊かさを守ろう
16)平和と公正をすべての人に
17)パートナーシップで目標を達成しよう)
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SDGsは、無理をせず「地に足のついた」取り組みをすることが求められているそうで、この本でも次のように書いてありました。
「SDGsは各企業がそれぞれの本業を通じて目標達成に取り組むことが重要であると示唆しています。それによってどの企業も参加しやすく、かつ地に足のついた活動ができるようになっています。(中略)
SDGsは遠大な目標ですが、それを達成するのは必ずしも壮大な計画である必要はないのです。足元を見つめて、できることから一歩一歩始めていく。その繰り返しが社会を、世界を、地球環境を変えていくということなのではないでしょうか。」
地球をきれいにして環境問題を解決する……大変なことのようですが、私も、エネルギーや資源を節約する、エコバックを使う、ゴミ(使い捨てマスクも)をきちんと分別して処分するなど、自分の出来ることから地道に始めていきたいと思います。
誰もが無関係ではいられない「環境の科学」の基礎知識を、総合的に教えてくれる入門書です。ぜひ読んでみてください。
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なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
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