『南極ダイアリー (講談社選書メチエ)』2020/11/12
水口 博也 (著)
コウテイペンギン、アデリーペンギン、ジェンツーペンギン、ナンキョクオットセイ……地球最後の秘境・南極の現状を120枚の写真(うちカラー口絵32ページ)で綴る、絶海の南極20年の記録です。
写真家の水口さんの本なので写真ばかりかと思いきや、実は写真は全体の四分の一以下という感じで、南極の現状を描いている文章の方がずっと多いです。写真家の方の文章らしく、目に映る事実が、音や匂いまで感じさせてくれるような鮮やかな文章で綴られていて、南極の環境が変わりつつある現状を、まざまざと知ることが出来ました。
棚氷の崩壊、氷河の後退、上昇する海水温……南極大陸と南極圏の島々では、自然環境と生態系の変化が複雑に絡み合い、予想外の事態が次々と起こっています。
例えば南極のホープ湾では、アデリーペンギンが個体数を減らしているそうです。その一方で、これまでアデリーペンギンが占めていた繁殖地を利用しながら勢力をのばしてきたのは、ジェンツーペンギンやヒゲペンギン。その大きな原因の一つは、南極半島の西側の海水温が上昇、冬期に発達する海氷が減少していることだそうです。
この他にも、大気中の二酸化炭素濃度が少しずつあがっていることで海水(およそpH8.1)のアルカリ性が弱まりつつあるとか、植物プランクトンが減りサルパが増えつつあるなど、さまざまな変化が起こっているそうです。
さて、南極圏で多数の写真を撮影している水口さんは、面白い写真を撮ったことがあるそうです。それは研究用の足輪(A77という文字)がついたワタリアホウドリ。大海原を渡る風に乗って飛翔するワタリアホウドリを撮影したとき、足輪があるのに気付いたとか。研究者に連絡を取ってみたら、このアホウドリは30歳をこえていて、これまで七度、雛を巣立たせているなどの情報を教えてもらえようです。研究者のネットワークとも、こんな形でつながっているんですね。
素晴らしい南極の(主に動物)写真とともに、南極の現状を紹介してくれる本でした。写真家ならではの目で、南極のような簡単には行けない過酷な環境のリアルな姿を感じさせてくれて、とても参考になりました。
一例として、砕氷船クリブニコフ号でのコクテイペンギン繁殖地(ワシントン岬)への旅の描写の一部を、以下に紹介させていただきます。
「この航海の足になったクリブニコフ号は、一九九〇年にフィンランドで建造された砕氷船である。コウテイペンギンの繁殖地を訪ねようとするなら、どうしても砕氷船が必要になる。こうした極地でのエクスペディションに使われてきた船だ。
全長一三二メートル、六基のエンジンとそれぞれにつながった六つのスクリューを持っている。ふだんは二基のエンジンで航行するが、砕氷活動がはじまると、氷の厚さによって使用するエンジンの数を増やしていく。ロス海に入ってまもなくは、海面の半分ほどを海氷が覆う程度で、船は順調に氷を押し分けるように進んでいた。
行く手に遠く、浮氷上に見える小さな黒い点は、たいていはカニクイアザラシ。肉眼でようやく体の細部がとらえられるほどに近づく頃には、大慌てで海にとびこんで姿を消すのが常だ。
別の氷のうえでは、船の接近に驚いた一群のアデリーペンギンが、いっせいに氷上を駆けだしていく。正面向きで腹側を見せていたペンギンが、いっせいにふりかえるさまは、腹の白が背の黒に一瞬のうちに反転して、まるでオセロゲームを思わせる。」
……情景が鮮やかに目に浮かびますね☆
写真と文章で、南極のリアルな姿を垣間見ることが出来る『南極ダイアリー』です。ぜひ読んでみてください
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