『免疫の守護者 制御性T細胞とはなにか (ブルーバックス)』2020/10/22
坂口 志文 (著), 塚﨑 朝子 (著)

 私たちの免疫系は、なぜ自己の細胞や抗原に対して反応しないのか? 免疫学の最大の謎ともいえる「免疫自己寛容」の解明に長年取り組んできた坂口さんが、世界で初めて発見した「制御性T細胞(Tレグ)」。免疫学にパラダイム・シフトをもたらし、「がん」や「自己免疫疾患」の治療や「臓器移植」にも革命をもたらすとされる研究を続けてきた経緯と、現在の最新情報を紹介してくれる本です。
「まえがき」には、「制御性T細胞(Tレグ)」研究経緯と、今後の展開について、次のような概要紹介がありました。
「私の学問的興味は、「なぜ、免疫系は自分に対して反応しないのか」という免疫自己寛容の解明であり、そこから免疫寛容のより一般的なメカニズムを探っていった。
 さまざまな実験系を組み立て、自らの仮説を検証しながら、免疫自己寛容のメカニズムに迫っていくなかで、免疫自己寛容の維持に中心的な役割を果たしている生体内の免疫細胞を捉えて、それを「制御性T細胞」と命名した。この細胞は、免疫系の「守護者」として、その暴走を抑えるように働いている。自己免疫疾患という現象から始めて、免疫系が、制御性T細胞を介して、いかに分子レベルで機能を発揮し、病気を抑えているかを徐々に明らかにすることができた。」
「かつて、免疫療法はどことなく怪しい治療と考えられていたが、確かにがんが治せる時代を迎えて、我々も別のアプローチで、がん免疫療法の開発に挑んでいる。実は、がん細胞は、自己の細胞が遺伝子変異を起こした、いわば「自己もどき」細胞だ。それに対して、免疫系を抑制している制御性T細胞の働きを制御して、「自己」「非自己」の境界を操作すると、免疫系が、がん細胞を攻撃しはじめると考えられる。
 同じようにして、制御性T細胞のバランスを変えることで、自己免疫疾患やアレルギー疾患、さらには臓器移植に伴う拒絶反応や感染症などの治療、そして予防ができる時代が近づいてきている。制御性T細胞の医療への応用が現実味を帯びてきている。
 従来からある免疫抑制薬とは違って、もともと誰もが生体に備えている細胞を介した治療法であれば、より穏やかでありながら、抗原特異的であるが故に高い治療効果が実現できる可能性がある。」
 ……自分自身の免疫機構をうまく制御して、自己免疫疾患やアレルギー疾患が治療できるだけでなく、臓器移植やがん治療にも効果が期待できるなら、本当に素晴らしいですね!
 でも、「制御性T細胞(Tレグ)」を制御して臓器移植を成功させた後、再び普通の状態に戻すということは出来るのかなー、ずっと制御されっぱなしだと逆に悪影響があるのでは? とちょっと心配してしまいましたが、例えば、がんの治療の場合は、次の「近赤外光線免疫療法」のような賢い使い方があるようです。
「Tレグは、がんの周囲に集まり腫瘍免疫にブレーキをかける。そこで、Tレグと結合する抗体に、特定の波長の近赤外光線を当てると化学反応を起こす化学物質を付けて、がんを発症したマウスに注射する。すると近赤外光線を当てた10分後には、Tレグが大幅に減少し、免疫細胞ががんへの攻撃を開始したことで、約1日ですべてのがん細胞が消失したというのだ。(中略)この方法は、光を当てた場所のがんを攻撃する免疫細胞だけが活性化され、自己免疫反応は起こらないことも確認されている。全身のがんを容易に治療できる可能性がある。」
 こういう使い方はいいですね!
「新しい免疫医療を切り拓く」ことが期待されている「免疫の守護者 制御性T細胞」の研究の歴史と、現在の最新情報を詳しく教えてくれる本で、とても勉強になりました。
 また、「第4章 サプレッサーT細胞の呪縛」に詳しく書いてあるように、研究者たちから見放されていた研究対象だった制御性T細胞を、地道に研究し続けた苦労話なども、研究者の方にはとても参考になるのではないでしょうか。ぜひ読んでみてください。
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
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