『NEO ECONOMY(ネオエコノミー) 世界の知性が挑む経済の謎』2020/5/22
日本経済新聞社 (編集)
産業革命以来、人類はモノを効率よく大量に作り経済を成長させてきましたが、その常識は、デジタル技術の進歩によって覆されてしまいました。富の源泉はモノではなく、データや知識など形のない資産に移ったのです。新しい経済社会における「豊かさ」とは何か……「ネオエコノミー」の実像を映し出そうとする日本経済新聞の連載企画を書籍化した本です。「ネオエコノミー」が金融、産業、消費の最前線で現実となっている大変化をルポし、世界を代表する知性にインタビューすることで、「ネオエコノミー」の本質を考察しています。
30年前と比べると、世界ははるかに豊かで便利になったように感じます。それに対して、この本は次のように指摘します。
「ところが、この豊かさはつかみどころがない。みかけ上は無料で提供されるサービスばかりで、「価格」という物差しではその大きさをとらえきれない。新しい経済「ネオエコノミー」を考える上で重要な視点はここにある。なぜ無料のサービスがあふれるのか。富の源泉は何なのか。経済成長や豊かさをとらえることが難しくなると、その影響は経済全体にどのように跳ね返るのか。」
……本当にそうですね。
「国家の富を表す国内総生産(GDP)にも異変が起きている。主要国のGDPでフィジカル(有形資産)とインタンジブル(無形資産)が拮抗し、米国などでは逆転現象も起きている。」
「「国境がなく、形も持たないデジタル技術は、世界経済を根本的につくりかえている」。20か国・地域(G20)が共有する危機感だ。国家はこれまでモノの豊かさを測る基準を定め、税制や社会保障を通じて富を分配してきた。目に見えない豊かさが広がり、国家という枠組みを根底から揺さぶる。経済の姿をとらえ直し、秩序をつくりあげるときが来た。」
この本を読むことで、「ネオエコノミー」の現状の姿や、そこに内包されている不安因子など、さまざまなことを総合的に知ることが出来ました。
印象に残ったことのごく一部を以下に紹介します。
Q:今の企業決算や情報開示の仕組みは無形資産の価値を適切に計測できているのでしょうか。
A:「米グーグルの持ち株会社、アルファベットの無形資産の価値を米評価会社が試算したところ、開示されている評価額の30倍以上という結果になった。今の財務報告書は物理的な資産の計上が中心のアナログ時代の産物だ。今や企業の競争優位は無形資産によって決まる。デジタル時代に適した仕組みに変える必要がある」
Q:企業はどう対応していくべきでしょうか。
A:「企業の戦略に即した無形資産のポートフォリオを構築し、それらを適切に保護する必要がある。保険コンサルティング会社エーオンの調査では、企業は有形資産の60%に保険をかけているのに、無形資産に保険をかけている割合はわずか16%だった。サイバー攻撃や知的財産の侵害によって被る損失が有形資産の損傷による損失を上回る場合が多いにもかかわらず、企業は無形資産の保護に対する関心が低い」(シンガポール知的財産事務局 マンダ・ティ氏)
Q:技術の進展を受け人は変わりましたか
A:「我々は豊かになり、リスクを嫌うようになった。今に満足しており、危機を受け止める貯蓄や力強さにかけている。将来のための大胆なビジョンが必要だ。直近の大きな変革はスマートフォンだった。全ての人を世界の情報網とつなぐ壮大かつ楽しいミッションだ。同時にスマホは人々を受動的にした。人は抗議活動に出かけるのではなく、スマホを見続ける。長期的には社会をむしばむだろう」(ジョージ・メイソン大 タイラー・コーエン教授)
Q:既存の統計が無料サービスなど経済の実態を捉えきれていないという指摘があります。
A:「我々はかつても無料サービスを手にしていた。テレビの発明で娯楽番組が無料で放映され、人々は映画館に行かずに済むようになった。ただ無料で得られる情報量が昔と比べ今ははるかに多く、かつ価値があるということだ」
「スマホから消費者が大きな恩恵を受けていることは疑いようがない。だがそれはビジネスによる生産物とは異なる。消費者は、ビジネスの生産や生産性と無関係のところで利益を受けている」(ノースウエスタン大 ロバート・ゴードン教授)
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この他にも「「デジタル分業(他国からの仕事依頼をネット経由で自宅作業)」世界で1.1憶人」、「不動産の物件ごとに空気の清浄度を可視化する」、「価格にあらゆる情報が瞬時かつ合理的に反映される。予測を磨く試みは市場を効率的な理想型へと近づける」、「デジタル通貨は利子率がマイナスでもマネーを循環させられる」など、デジタル技術が、世界の経済だけでなく、雇用や生活にも影響を与えている事例をたくさん読むことができました。
私たちは今、まさに社会の大変革期のまっただ中にいるのだと思います。世界がどのように変わろうとしているのか、今後も注目していきたいと思っています。とても参考になる本だったので、みなさんもぜひ読んでみてください。
最後に、本書の「おわりに」にあった文章を、紹介させていただきます。
「古い考えを覆すのは、そのままでは説明できない事実の積み重ねだ。科学哲学者クーンは、「地動説から天動説へ」といったパラダイムの転換は長い時間をかけて起きると唱えた。世界は変革の中にある。国家も企業も個人もその渦に巻き込まれる。私たちが目にする日々の変化に、ネオエコノミーの姿が映る。」
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なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
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