『鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ。』2017/4/18
川上 和人 (著)
アウトドア理系「鳥類学者」の知られざる毎日を垣間見させてくれる、面白くて勉強にもなる素敵な本(エッセイ集?)です。
節操もないほど多方面に興味がある私ですが、さすがに鳥類学まで詳しくはなかったので、次の記述には驚かされました。
「おそらく、一般に名前が知られている鳥類学者は、ジェームズ・ボンドぐらいであろう。英国秘密情報部勤務に同姓同名がいるが、彼の名は実在の鳥類学者から命名されたのだ。隠密であるスパイに知名度で負けているというのは、実に由々しき事態である。スパイの名前が有名ということも、英国秘密情報部としては由々しき事態である。」
ジェームズ・ボンドなんて名前の鳥類学者がいたんだ……それどころか、実は彼の名前からスパイの名前が付けられていたんだ……まったく知らなくてごめんなさい。
という感じで、鳥類学に関する知識を、面白おかしく知ることが出来るのです。例えば、「鳥目」というぐらいだから、鳥は夜に弱いのかと思っていましたが、そうでもない鳥もいるようです。
「(鳥には)夜も昼も共に活動する両刀型が多数いるのだ。たとえば、干潟で食物を摂るシギやチドリには、太陽の有無よりも潮の干満の方が重要であり、夜も採食に精を出す種が多数知られている。様々な渡り鳥も夜間に長距離を移動する。これは、タカやハヤブサに襲われないためとも、気温が低く気流が安定しているためとも言われる。」
このように鳥類学に関する記述も多いので、この本は本来「生物学」のジャンルに分類すべきだとは思うのですが、あまりにも話が面白いので、「ユーモア本」としても紹介することにさせていただきました。その方がこの本の真の目的(できるだけ大勢の人に鳥類学を知ってもらうこと)にも合致すると思うので……。
個人的に、この本の中で一番インパクトを感じた(驚かされた・笑わされた)のは、「第2章 鳥類学者、絶海の孤島で死にそうになる」。
南硫黄島での自然環境調査に参加したときの話なのですが、その準備のためにまず「体力づくり」が必要になるのです。というのは、「南硫黄島は断崖絶壁に囲まれている」ので、泳いで上陸しなければならず、キック一つで海中からゴムボートに飛び上がれる能力(!)が要求されるからです。さらに調査のためには絶壁の登攀も必要なので、クライミング能力も……生物学の研究者ってガテン系労働者に負けないほどの体力がないとダメなんですね……。(もっとも実際には、上陸にはダイバーが、ルート工作にはアルピニストが、それぞれサポートにつくことになったそうですが……)
またキャンプ可能な正しい崖の選び方についての教えも、すごく参考になりました。
「崖下では、上を見ずに足元を見て欲しい。落ちている石が丸ければ安全だ。角張った石は新鮮な落石の証拠、危険性が高いのだ。こうして安全地帯を選んでも、残念ながら落石はゼロではない。毎晩コブシ大の石が降ってくるため、寝るときもヘルメットが手放せない。だからといって海岸に寄ると、潮がみちてきて人魚が足を引っ張る。」
ひゃー!って感じですが、これはまだ序の口、調査中はさらに過酷な状況(ハエやウツボとの戦い)に陥っていきます。まさに「一見平和な自然の情景も突然牙をむく。女医さんもお色気ナースもいない無人島では、小さな怪我も油断できない。この島では、生も死も常に間近にあるのだ。」なのでした……(戦慄)。
読みながら思わず「うわーーー!」と悲鳴をあげてしまったことも何度もありましたが(笑)、鳥類学者の意外なほどワイルドな生活に驚き呆れる一方で、トホホ系の日常に癒され、その素晴らしいユーモア感覚に笑いながら感心しているうちに、鳥類の学名の名付け方、自然調査の価値と過酷さ、骨格標本の作り方、国際会議の実態、そして鳥類学者の生活がどういうものかまで学べてしまうという、とても美味しい本でした。ユーモア好きな方はもちろん、生物学に興味のある方も、ぜひ読んでみてください。お勧めです☆
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