『砂と人類: いかにして砂が文明を変容させたか』2020/3/2
Vince Beiser (原著), ヴィンス バイザー (著), 藤崎 百合 (翻訳)
建物、道路、コンピューターチップ、石油や天然ガスの採掘……砂は、世界で最も重要な固体で、現代文明の土台をなす物質です。砂が文明をどう変容させてきたか、今後砂はどうなっていくのかについて、詳細なデータをもとに考察している本です。
『砂と人類』というタイトルから「コンクリートで作られた現代文明」を予想して読み始めたのですが、砂はコンクリートだけでなく、まさに人類の文明のあらゆる場面で、土台を支えてくれているのでした。
「コンクリートやガラスの大量生産と普及によって状況は一変し、工業化が進んだ世界において、人々の暮らし方や生活空間は様変わりすることになった。(中略)砂から作られたシリコンチップや高性能のハードウェアを基盤とするデジタルテクノロジーによって、途方もない規模で、なおかつ日常生活のレベルで、世界経済が再構築され始めたのだ。」
コンクリートだけでなく、ガラスやシリコンチップまで砂から作られている……まさに現代の私たちの生活は「砂」抜きでは成り立たないんですね!
そして無尽蔵にあるように感じているこの「砂」は、枯渇し始めているそうです。
「そして信じられないかもしれないが、私たちはその砂を使い果たし始めている。」
え? でも砂漠に砂はいっぱいあるけど? しかも世界的に砂漠化が進んでいるから私たちは危機感を抱いているんじゃなかったっけ? と思ったのですが、この本にはこんな記述が。
「一般に、砂漠の砂は建築向きではない。水ではなく風によって形作られた砂漠の砂粒は、丸くなりすぎていて粒同士がしっかりくっつかないのだ。」
そうだったんだ……。砂にもいろいろあるんですね。あれ? 砂って、そもそも何?
「最も広く用いられている地質学的基準であるウッデンおよびウェントワースの区分法によると、砂という用語には、直径が0.625ミリメートルから2ミリメートルまでの、ばらばらの粒状になっている硬い物質であればなんでも含まれる。」
……ああ、そうだったんだ。そういう砂の中から目的に合わせた種類の砂が必要で、産業的に有用な砂が枯渇し始めているってことなのか。
世界中で「砂」の採掘は、かなり強引に進められているらしく、犯罪としかいいようのない採掘や、砂の掘りすぎで砂浜が消えていったり、橋の土台がむき出しとなって支えのない状態のまま放置されたり、砂塵で生活環境に悪影響を及ぼしたり、各地で大変な問題が起こっているようです。
この本は、砂と人類の歴史をたどるだけでなく、砂による環境破壊、砂の枯渇、犯罪的な採掘状況などへの警鐘も鳴らしています。
「それが人間の歴史のたどる道である。都市、幹線道路、工場、近代文明は、土地を引き裂くことを、人々や他の生き物を追い出すことを必要とする。私たちが今のように生活するために必要な資源を得るには、少なくとも一部の人々に迷惑をかけて、自然環境にいくらかの害を及ぼす(あるいはいくらか変化させる)ことは避けられない。文明とは自然界を乱すものであって、私たち人間こそが自然界を乱している。しかし、私たち人間は洞窟での暮らしに戻るつもりはない。木を伐採し川をせき止めることを、そして何よりも、砂を掘り出すことをやめるつもりはない。私たちの課題とは、そういったことを行う際の、無責任ではない、持続可能で、限定的な方法を見つけることなのだ。なんとか逃げ切れる程度にまで、そういったことを最小限に抑える必要がある。」
まさに、その通りだと思います。砂に支えられている都市生活をやめたくはありませんが、もっと「砂」を大切に使う方法を考え、実行していくべきなのでしょう。
この本では、そのためのいくつかの方法の提案もありました。例えば、「政府の規制強化」、「コンクリートの寿命を延ばす技術(自己治癒コンクリートなど)」、「砂のリサイクル」、「シェアリングエコノミーによる砂の消費削減」など。
「結局のところ、長期的な解決策は1つしかない。人間が砂の使用量を減らすことに取り組まねばならないということだ。もっと言うと、人間はあらゆるものの使用量を減らすことに取り組まねばならない。」
……「砂」などの資源を今後も使い続けていくために、私自身も、いろいろなもの(資源)の無駄遣いを避けるように心がけたいと思いました……。
とても興味深く、いろんなことを考えさせられた本でした。コンクリートの作り方や、シリコンからウエハーが作られる工程、頁岩層から石油やガス採掘するためのフラッキングの方法など、かなり具体的に説明してくれるので勉強にもなります。ぜひ読んでみてください☆
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