『夢の正体: 夜の旅を科学する』2020/2/20
アリス ロブ (著), Alice Robb (その他), 川添 節子 (翻訳)
夢はでたらめな現象ではなく、私たちの学習を助け、精神的トラウマを克服するためにも役に立つ……科学と文化の両面から夢と睡眠の秘密に迫っていく本です。
夢とは思えないほど細部まではっきりしている「明晰夢」。ペルーでの発掘旅行中に、この明晰夢を自ら体験してしまったロブさんは、その不可思議な世界に魅せられて夢の科学に興味を抱いたそうです。
この本は夢に関する科学と歴史をテーマとしていて、夢と神話、フロイトの夢診断、さらに夢と脳波の関係の発見(急速眼球運動/レム睡眠)、夢と学習の関係など、夢の歴史や科学的研究を総合的に概観することが出来ます。
残念ながら夢の研究は、まだ仮説段階のものが多いようですが、夢は、次のように学習やトラウマの克服に役立つ可能性があることが、少しずつ明らかになってきています。
・最近の研究からは、新しいスキルを夢に見ることと、実生活でそのスキルが上達することのあいだには強いつながりがあるとわかっている。
・(夢はトラウマからの回復に役立つことがある)。火事あるいは津波や洪水などの自然災害の夢を見て、そのなかで受動的に観察するのではなく、立ち向かって制御した人の場合、一年後には回復しているケースが多かった。
・(アウシュビッツでは、)夢を共有したり、解釈したりするとき、人々は人間性を取り戻した。(中略)夢を共有するのは互いの助けになり、自尊心を高めるのに役立った。
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そして、ロブさんがこの本を書くきっかけとなった明晰夢についても、自らの体験を含めて具体的に説明されていました。その方法については、「訳者のあとがき」に分かりやすい説明があったので、それを以下に紹介させていただきます。
「映画「インセプション」で一躍有名になった明晰夢についても、見るための方法が述べられている。ポイントはいくつかあり、まずは夢を思い出せるようになることが重要で、これには夢日記をつけることが有用だという。そして、いま自分が起きているのか、夢を見ているのかを問いかけるリアリティ・チェックを習慣づけること。それから明晰夢を見やすい時間帯を狙うこと(睡眠の遅い時間帯のほうが成功する確率が高いらしい)。」
なおSF映画「インセプション」とは、「産業スパイがターゲットの夢に侵入して秘密を盗み、悪い考えを植えつけてくる」という内容のものだそうです(怖いですね……)。
ロブさんは夢や明晰夢について、次のように考えているようです。
「これまで述べてきた夢の可能性――現実の予行演習をする、新しいアイデアを生み出す、感情を整える、コミュニティを育む――はすべて、ふだん見る普通の夢で得られるものだ。夢の進化論的および認知的機能を発揮するには、明晰夢でなくてもいい。
しかし、明晰夢を見る人が得る効用はきわめて大きい。明晰夢が見られるなら、特定の問題の夢を見て、洞察を深めて答えを探し、カタルシスを得るための舞台をつくり、潜在意識の深層を精査することができる。悪夢に対処することも、心の平静に役立つ夢を見ることもできる。」
……明晰夢は効用がかなりあるようですが、個人的には、このスキルはなくてもいいかなと思ってしまいました(汗)。なにしろ「現実と見間違うような鮮やかな夢」なので、夢と現実の区別をつける注意が必要だし、かなり疲れそうなイメージを感じてしまったのです。夢(幻想)と現実が分からなくなるのは、機械を使った「仮想現実」だけで十分だし、「仮想現実」なら、「機械をはずす」だけで現実に戻れるわけですから(区別が明確)。
また、夢は「自然な睡眠」の一部に組み込まれているものだから、それに「人工的な変化(矯正)」をつけたくないとも思ってしまいます。睡眠は身体を休めるだけでなく、脳も休ませている(脳にたまった余分なゴミや、不要な神経の繋がりをほぐしてリフレッシュさせている)と考えているので、睡眠中の脳には、のびのびと休んで欲しいと願っています。
それでも、明晰夢には「悪夢に対処する」などの効用があるかもしれないので、悪夢にひどく悩まされている方は、一度試してみる価値はあるかもしれません。
夢の科学的歴史や研究を概観できる本でした。興味のある方は読んでみてください。
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なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
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