『Think Smart 間違った思い込みを避けて、賢く生き抜くための思考法』2020/1/22
ロルフ・ドベリ (著), 安原実津 (翻訳)

「すべきでないこと」は、「すべきこと」よりはるかに影響力がある。
「幸福」を手に入れるのではなく「不幸」を避ける。そうすれば「よい人生」が手に入る……「間違った思い込みを避けて、賢く生き抜くための思考法」を教えてくれる「逆説的幸福論」です。
1)新年の抱負が達成できないわけ【先延ばし】
2)「理由」がないといらいらしてしまうわけ【カチッサー効果】
3)比較しすぎると、いい決断ができなくなってしまうわけ【決断疲れ】
4)「自分は大丈夫」と錯覚してしまうわけ【注意の錯覚】
5)自分でつくった料理のほうがおいしく感じるわけ【NIH症候群】
 ……などの全部で52の思考法が紹介されています。それぞれの項目の【】内に書かれている単語は、心理学などの学術研究で使われているもので、ここで紹介されている思考法には、それなりの根拠があるようです。
 個人的に参考になったのは、「10)現状維持を選んでしまうわけ【デフォルト効果】」にあった、「憲法で保障された自由を制限することなく行政が市民を「操作」できる方法」は、「「選択肢」をいくつか掲げるのと同時に、市民がどれを選択するか決めかねた場合の「標準案」を設定しておく」ということ。
 これは対象が困難な選択であればあるほど、効果的なんじゃないかなと思わされました。さらに効果的にするには、「選択肢の数を増やす」、「選択のための情報を多数提示する」というのも援護射撃になるのかもしれません(笑)。これらは一見、「市民の合理的判断を助ける」ために役立つようにも思えますが、私たちには、「比較しすぎると、いい決断ができなくなる【決断疲れ】」、「情報が多すぎると決められなくなり、決断の質も下がる【情報バイアス】」という性質があるので、きっと選択自体がイヤになって、自然に「標準案」を選択してしまうでしょう。考えてみれば、私自身も、ITソフトをインストールするときに聞かれる様々な選択項目がイヤになって、「ああもう、全部省略値でいいや」と思ってしまいがちです(汗)。……これって、本当のところは、「相手の思うつぼ」にはまっているんでしょうね……。
 こんな感じで、人間が陥りがちな状態にならないための52の思考法を教えてくれるのです。
「2)「理由」がないといらいらしてしまうわけ【カチッサー効果】」も、ぜひ知っておくべきことだと思います。実は私は以前、何か問題が起きた時には、「改善する」ことこそが大事で、「言い訳をするのはよくない(言い訳する暇があるなら改善作業を先行させよう)」と考えていた時がありましたが、現在では「言い訳をすることは人間関係を維持するために重要(必要)」なことだったのだと反省しています。というのも、自分が誰かのせいでトラブルに遭遇した時には、たとえ「言い訳」では問題解決にならなかったとしても、何も言われないよりマシだと思うからです。その理由は、ここで書かれている「2)「理由」がないといらいらしてしまうわけ【カチッサー効果】」と同じような心理だったのだなーと腑に落ちました。
 ということで、役に立つ思考法をたくさん読むことが出来たのですが、全部が正しいと思えたわけではありません。
 例えば、「42)お金を寄付したほうがいいわけ【ボランティアの浅はかな考え】」は、「専門家に任せた方が効率がいいのだから、素人は自分の仕事をしてお金を寄付した方がいい」という教えでしたが、災害などの被害者は、助けてくれるボランティアの人の「寄り添ってくれる気持ち」が一番嬉しいのではないのかな、と思ってしまいました。お金で職人を雇ってくれるほうが復旧自体は速いのかもしれませんが、あまりにも「合理的考え」過ぎるような……。
 また、「46)危機が好機になることがめったにないわけ【起死回生の誤謬】」の「「不快なことが自分のためになる」というのは間違った思いこみ」というのも、確かにそれが真実なのかもしれませんが、自らの無鉄砲さに気づくなど、好転の契機になることだって、あるのではないでしょうか。
 こんな感じで、後半になると、「そうかなあ?」と必ずしも賛成できないような思考法もありましたが、全体的には参考になる思考法だったように思います(賛成できなかった思考法にも、部分的には正しい面があると思いました)。
「人間の弱さ(陥りやすい失敗)」を教えてくれる本でした。間違った思い込みを避けたいと考えている方は、ぜひ読んでみてください。何かヒントを得られると思います。
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