『図解 使える失敗学大全』2020/4/22
畑村 洋太郎 (著)

 失敗に関する研究を続けてきた畑村さんが教えてくれる「失敗学大全」。内容は次の通りです。
1 失敗に負けない人になる―失敗からの回復
(失敗なくして発展はない。効果的な失敗の学習方法とは? 他)
2 失敗を分析できる人になる―失敗学の基礎
(失敗原因には階層性がある。失敗は放置すると成長する 他)
3 失敗を創造に変える人になる―失敗から創造へ
(「創造」を生む人間の思考と論理的思考は違う。人間が創造するときの頭の中 他)
4 失敗を活かせるリーダーになる―失敗学応用編
(自分の影におびえず、変わり続ける。思考や行動の上位階層へ 他)
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 例えば「1 失敗に負けない人になる」では、次のような方法を教えてもらえます(一部の抜粋です)。
・体験学習と仮想失敗体験で致命的失敗を防ぐ
・失敗する前に訓練失敗を積み、ポジション・ペーパーを準備しよう
・失敗したら、失敗を認めた上で鈍感になろう。
・失敗したときこそ、「人は弱い」ということを認めよう
・失敗の後始末は、被害最小の原理に基づいてやろう
・失敗したら、人の力を借りて元気になろう
・失敗を的確に評価する「視点(物理的、経済的、社会的、倫理的)」を持ち組織のフィードバック系を評価する
 などなど……とても参考になりました。
 ただし、「失敗に立ち向かえないときに取るべき7つの方法」として、「逃げる」「他人のせいにする」「おいしいものを食べる」「お酒を飲む」「眠る」「気晴らしをする」「愚痴を言う」の7つが紹介されていましたが、このうち「他人のせいにする」のは、責任転嫁された人から反撃されることになる可能性があるので、失敗で精神的ダメージを受けている時に、さらにダメージを重ねることになりそうな……。また「逃げる」というのも、あいつは失敗しただけでなく無責任な奴でもあったんだなと周囲に評価されてしまうことに繋がるのでは? この二つは長期的に見るとダメージを大きくするだけだと思うので、本当にそうしないと自殺に追い込まれそうという精神的にギリギリの時だけ緊急避難的に利用する方がいいと感じました。
 また「失敗した人を助けるためのインチキが許されることもある」として、一人のミスを職場のみんなが2年かけてカバーしたイカサマの例が紹介されていて、その職場のみんなの優しさに感動させられ、心が温かくはなりましたが……ちょっと待てよ。これも一歩間違えば、組織的リコール隠しにも通じかねない行動じゃないかな? と懸念もさせられました。善意からとはいえ、このようなイカサマ(ウソ)が発覚すると、会社としての信用を失います。長期的視点から見ると、イカサマ(ウソ)は、たとえ善意からでも可能な限り行わないようにした方がいいのではないかと感じてしまいました。
 そして、このように「失敗を隠そう」とするのが、実は人間としては当然の心理だと推察される以上、この「自然の気持ち」を越えて「失敗を公表しよう」「失敗体験を共有して未来の失敗を未然に防ごう」という行動を、「人工的に」起こさせるための風土作りが絶対に必要なのだと思います。
 この本の「2 失敗を分析できる人になる」の「失敗学からの提案」の一つに、「失敗に対する米国の姿勢を学ぼう」として、「個人の責任追及より失敗の原因究明のほうが優先される、という考え方による法整備が必要だ」と書いてありましたが、本当に、このような法整備をすべきだと共感させられました。
 そして最後の章「4 失敗を活かせるリーダーになる」にあった「企業風土を改革するためには四つの文化が必要」の「大切なのは「自ら意思決定し挑戦する」「コミュニケーションする」「マニュアルを磨いていく」「2.5人称の視点(自分や家族の問題として考える)」という四つの文化だ」という言葉が、「失敗学」の神髄を表しているように感じました。
 必ずしもすべてに賛同したわけではありませんでしたが、参考になり、考えさせられることも多かった本でした。「失敗を防ぎたい」「失敗経験を活かしたい」と考えている方は、ぜひ読んでみてください。
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
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