『COSMOS』2013/6/11
カール・セーガン (著), 木村繁 (翻訳)

 生命の起源や進化も幅広く網羅する「宇宙の本」で、天文学、惑星科学への夢を熱く語って、今日の宇宙科学ブームのさきがけとなり、1980年代にミリオンセラーとなった名著です。
 今回その最新作の『COSMOS コスモス いくつもの世界』が出たことをきっかけに再読してみたのですが、かつて読んだときの、わくわく感がそのまま甦ってきて、やっぱり科学って凄く楽しいな!と気分を高揚させられたので、1980年代の古い本ではありますが、ここで紹介させていただきます。
 まず冒頭の「1 宇宙の浜辺で」は、なんと私たちが宇宙船に乗って、地球から80億光年ほど離れた星雲の中から、地球への旅を開始するところから始まります。この場所は、「地球から知られているかぎりの宇宙のはてまでの中間にあたる場所」なのだそうです(笑)。銀河と銀河の間に立って周囲を眺め、ゆっくり回転している銀河系の渦巻に近づいて、太陽系へ、そして地球へ……こんな視点から世界を眺めたことがなかったので、「視界がすごく巨大に開けた」気持ちになって新鮮でした。
 そしてこの本の最高に素晴らしいところは、単なる「宇宙」の本にとどまらず、科学全般を網羅する本だということ!
「本書は、もととなった13回のテレビシリーズに合わせて、全13章からなっています。カール・セーガンはこの本で、主に四つのテーマについて話を展開しました。
 第一に、宇宙に憧れ、その謎を一つ一つ解明していく人類の知性の歴史。
 第二に、人類の住む地球からそのお隣の太陽系惑星への飽くなき探求
 第三に、太陽系をはるかに超え、銀河系の向こうの宇宙の果てについて
 第四に、宇宙の中の生命、そして地球と私たち人類の未来について」
 ……進化の話とか、地球科学の話とか、宇宙の話とかが、すごく分かりやすい解説でどんどん語られていき、科学って凄いな、地球って、宇宙って面白いな☆と、難しい話なのにも関わらず、わくわくしながら読み進めていけるのです。
 例えば、木星に住む生物を、セーガンさんが想像するところは、次のような感じ。
「木星のような、気体でできた巨大な惑星には、着陸できるような固体の表面はない。それは、水素、ヘリウム、メタン、水蒸気、アンモニアに富んだ濃い大気を持っている。大気中には雲があり、そのなかを有機分子が降っていることだろう。それは、私たちが研究室での実験で作った有機物のようなもので、天からの恵みの食べ物のように降っていることだろう。しかし、このような惑星上では、生命の誕生を阻む独特な障害物がある。それは、大気のなかの乱流であり、しかも大気の下のほうは、非常に熱い、ということである。生物は、下のほうへ運ばれてフライにならないように気をつけなければならない。(中略)こんな状況のもとで暮らしていく一つの方法は、フライになってしまう前に、子供をたくさん作ることである。そうすれば、子供たちのいくらかは、上昇気流によって大気上層のいくらか冷たいところへと運ばれてゆくことだろう。このような生物は、非常に小さいことだろう。私たちは、このような生きものを「降下性生物」と呼ぶ。だが、それとは別に「浮遊性生物」もいるだろう。それは大きな気球のような構造をした生物だ。」
 ……なんか面白い生き物ですが、この想像の生物モデル、なかなかの説得力だと思いませんか?
 そして「宇宙」は遠く離れた場所にあるのではなく、私たちと密接な関係があるのだと強く感じさせてもくれるのです。
「まれにしか存在しない元素のいくつかは、超新星の爆発によって作られる。地球上には金やウランが比較的豊富にあるが、それは、太陽系ができる直前に、近くで数多くの超新星爆発があったからにほかならない。(中略)
 生命の起源や進化は、星の起源や進化ときわめて密接に関係している。第一に、私たちのからだを作っている物質、生命を可能にした原子は、ずっと昔に、はるかかなたの赤色巨星で作られたものである。宇宙にある化学元素の存在比と、恒星のなかで作られる原子の量の比とは、非常によく一致する。したがって、赤色巨星と超新星とが、物質を作り上げたオーブンであり、るつぼである。そのことには、ほとんど疑問の余地がない。(中略)
 第二に、何種類かの重い元素が地球上に存在するということは、太陽系が作られる直前に、近いところで超新星の爆発があったことを示している。しかし、これは、単なる偶然の一致とは思えない。超新星の爆発による衝撃波が恒星間宇宙の気体をチリを圧縮し、それがきっかけとなって凝縮が始まり、太陽系ができたのだろうと思われる。
 第三に、太陽が輝き始めたとき、紫外線が地球の大気に降り注いだ。大気の温度が上昇して雷が発生し、その稲妻がエネルギー源となって複雑な有機物が作られ、それが生命の起源に結びついた。
 第四に、地球上の生物は、ほとんど太陽光線だけを頼りにして生き続けている。植物は太陽からの光子を集め、太陽エネルギーを化学エネルギーに変えている。動物は、植物に寄生している。(中略)
 最後に、突然変異と呼ばれる遺伝的な変化が、進化の素材となっているが、その突然変異の一部は宇宙線によって引き起こされている。宇宙線とは、超新星の爆発のさいに、光とほとんど同じ速度で放出された高エネルギー粒子の流れだが、それが生物にあたると、突然変異を起こすことがある。自然は、その突然変異を起こした生物のなかから、新しい形の生物を選び出す。地球上の生物の進化の一部は、遠く離れた巨大な太陽たちの、はなばなしい死によって進められているのである。」
 遠い宇宙の果ての出来事だと思っていた「超新星爆発」は、地球や私たちを作るもとを作っていたんですね……私たちは「星の子」とか、なんかカッコよすぎて恥ずかしいような感じの陳腐な言葉だと思っていましたが(汗)……赤色巨星が作ってくれた貴重な素材の身体を持っているのか……。
 この本は、かつての私自身にも壮大な視点をくれた素晴らしい名著です。
 ただ……テレビシリーズがもとになっている本なのに、残念なことにカラー写真などがなく、ほぼ「文章」で出来ているのです。もっとも、その文章がとても美しいので、むしろ写真以上に想像力を刺激してくれるのかもしれません。
 上下2巻の長大な本ですが、ぜひ読んでみてください。お勧めです☆
(なお、シリーズ最新作の『COSMOS コスモス いくつもの世界』は、ナショナル・ジオグラフィックの写真やイラストとともに旅する珠玉の科学ドキュメンタリー。こちらは写真がとても美しく、『COSMOS』よりも文章は少なめです。)
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
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