『データ資本主義 21世紀ゴールドラッシュの勝者は誰か』2019/9/18
野口 悠紀雄 (著)

 データを制する者が世界を制するのか? ビッグデータが動かす経済社会、「データ資本主義」が台頭してきました。ビッグデータは経済取引、経済構造を変革しつつあり、監視社会が懸念されるなどの新しい問題も引き起こしつつあります。この本は、従来の歴史をまったく塗り替えつつあるビッグデータ経済の姿と、その問題点・可能性を分かりやすく解説してくれます。内容は次の通りです。
はじめに データを制するものは世界を制するか
第1章 ビッグデータは日常と「天文学的に」違う
第2章 ビッグデータによるパタン認識
第3章 ビッグデータによるプロファイリング
第4章 理論駆動科学からデータ駆動科学へ
第5章 データサイエンスの役割
第6章 データ資本主義とプラットフォーム企業
第7章 プラットフォーム企業の支配力にどう対抗するか
第8章 ビッグデータの将来
第9章 監視社会への道?
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 私たちは、現在、知らぬ間に「ビッグデータ」を提供しています。例えば、Suicaでの乗車記録、スマホでの位置情報とメールや通話記録など、さらにパソコンでの検索・閲覧・メール連絡・ウェブ店舗の商品購入……これらの記録は、すべて収集され蓄積されて、ビッグデータになっているのです。
 これらのビッグデータは、詳細な情報そのものが役に立つ場合もありますが、個々のデータだけではほとんど価値がないようなデータでも、膨大な数のデータが集まると、それらを分析することにより、経済的な価値が出てくるそうです。
 例えば、「AI機械学習の訓練データに用いる」。AI機械学習によって、コンピュータのパタン認識能力が飛躍的に向上していますが、これによってコールセンターの自動化、医療現場の画像認識による診断、完全自動運転、工場での検品などへの活用が期待されています。
 また「ビッグデータによるプロファイリング」も進んでいるそうです。プロファイリングとは、ビッグデータを使って、「相手がどういう人(あるいは企業)であるかを推定する作業」で、「お勧め商品」などの効果的な広告の表示の他、スコアリングなどに利用されているのだとか。
 個人的には、Amazonなどで「この商品を購入した人は、こんな商品も買っています」と教えてくれる情報は、「本」の場合はすごく参考になっています。同じジャンルの本や新刊などがすぐに表示されるので、自分が能動的に調べる手間が省けて助かります。……でもよく考えると、これって諸刃の剣ですよね。いつの間にか「自分で調べない」習慣がついて、Amazonにとって都合のよい不良在庫品を優先的に紹介されていても気づかなくなってしまうかも。気をつけなければ……。
 もちろん、この本では、ビッグデータの活用の他、ビッグデータにまつわる危険性(監視社会化など)も解説してくれます。個人情報を含むビッグデータがひそかに蓄積されていて、日々分析されていることを思うと……なんだかイヤな気分になってしまいます。たとえそれが、私にとって有用な情報(広告)表示につながるのだとしても。
 さて、個人的にビッグデータの活用として期待しているのは、「第4章 理論駆動科学からデータ駆動科学へ」で紹介されている「データ駆動科学への転換」。
 これまでの科学(とくに物理学)のモデルは、「現実を単純化」することで発展してきました(理論駆動科学)。ところが、「ヒトゲノムの解読」などで、先に「モデルを構築する」よりも、モデルなしのまま大量のデータを高速コンピュータで力づくで解読する方法の方が、手っ取り早いことが証明され、「ビッグデータの有用性」が明らかになってきたそうです
「データ駆動型では、モデルを固定することなく、データを用いて、現象を説明できるモデルをコンピュータが自動推定する。このため、モデルを作るのがむずかしい現象も扱える。そして、研究者が予想もしなかった新発見が可能となる。相関関係が把握できればよいのであって、因果関係は分からなくてもよい。整合的なモデルなしに科学は進歩しうる。理論やメカニズムの解明は必要ないということになった。いまや、「科学はどの程度自動化できるか」が研究者の関心となった。」
 ……これって、凄いことだと思います。
 正直言って、いつの間にか収集されている「ビッグデータ」については、気持ち悪さを感じずにいられませんが、「ビッグデータからモデルを自動推定」することは、変化の激しい現代社会で、各企業がうまく生き抜いていくための有用なツールになるのではないかと期待もしてしまうのです。
 だから結局は、「データ収集」が過度の監視社会につながらないよう我々一般人みんなが注目するなかで、各企業や社会の発展に寄与する使い方を許容していく……そういうバランス感覚が大事になるのではないでしょうか。
 今後も重要性が増していくと予想される「ビッグデータ」の活用と問題について、総合的に分かりやすく解説してくれる本でした。「ビッグデータ」は新しい技術なので、社会的活用や技術の進展だけでなく、規制なども含めて状況が大きく変化していく可能性があります。今後も注目していきたいと思います。みなさんも、ぜひ読んでみてください。
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
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